ORIGI

□Catastrophic Love Story 後編
1ページ/31ページ



「おめでとうございます。二ヶ月目ですよ」
次の日、水也との待ち合わせの前に産婦人科に寄った七緒は、妊娠を告げられた。
「ご出産の意志はおありですか?」
その言葉に、七緒は笑顔で頷いた。
「はい。よろしくお願いします」
七緒は、このことを早く水也に告げたくてしょうがなかった。
驚くだろうか、喜んでくれるだろうか。
きっと、両方だ。
(早く会いたいよ。水也…)
胸が躍るような気持ちで、水也を待った。
しかし、十四時を過ぎても水也の姿は一向に現れなかった。
「…遅いなぁ…」
いつも待ち合わせの時刻には、少なくとも自分より五分は早く着いている水也のことだ、遅刻するなんて、あり得ない。
だが、三十分を過ぎても、水也からは連絡の一本もない。
次第に七緒に焦りが生じる。
(まさか、事故…)
七緒は最悪の展開を想像し、そんなはずないと首を横に振ってかき消す。
その時、七緒の携帯が鳴った。着信相手は、水也からだった。
「もぉー水也、遅いよ。何かあったの?」
《…ごめん…七緒》
「いいよ。許してあげる。今どこにいるの?あたし水也に報告が」
《七緒…ごめん…》
七緒の言葉を遮って、水也はもう一度謝罪した。その声のトーンから、二度目の謝罪が待ち合わせに遅れたことだけでないことは、察しがついた。
「……何?どうしたの?」
(…あれ?)
何だろう。この予感。
この、不吉な予感…――。
《ごめん…俺、七緒の元には帰れない》
周りの音が、一瞬聞こえなくなった。
(何?)
今、なんて言った?
「―――…え?」
《最低だって、罵ってもいい。…由梨の…由梨の傍にいてあげたいんだ》
その言葉が、何を意味するのか理解出来ずに、七緒は呆然と立ち尽くした。
《俺が、悪いんだ…。俺が…俺の意思で、彼女の傍にいたいと思った。…たとえ、七緒と一緒にいられなくなっても…。そう、決めたんだ。…ごめん…ごめん七緒…ごめん…っ》
言い返す言葉が見つからなかった。
何を言ったって、もう水也は戻ってこない。そう思ったから。
「…そっか…分かった」
それ以上は、言葉に出来なかった。
12月25日。この日あたしは、神様から小さな命のプレゼントをもらうと同時に、世界で一番大切な人を失った。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ