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□ずっと大切にしてきた幼なじみ
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ずっと大切にしてきた幼なじみ。
俺の隣で、無邪気に笑う笑顔。
俺にはどんなことでも素直に頼ってきてくれる。
俺を一番に必要としてくれる。
でもそれはきっと、あいつにとって俺の存在が、大切な幼なじみだから。
もし、それを壊してしまったら、もう二度と、あいつは俺に笑いかけてはくれないのかもしれない。
今まで大切に守ってきたものが、一気に崩れていく。
それが怖くて、ずっと今までの関係を保とうとしている俺は、弱い男なのだろうか…――?


【ずっと大切にしてきた幼なじみ】


でももし、ほんの少しでもキラが俺と同じような思いを抱えていてくれたら…なんて、ありもしないことを考えているうちに、俺はいつも通り、キラの家を訪ねていた。
とくに用も無くお互いの家を訪ね合うことは、幼いときから日課のうちの一つだったから、そう不思議でも、不自然でもなく、ごく当たり前のことだった。
「あ、アスラン!今僕の家誰もいないんだ。夕飯には母さん帰ってくると思うから、それまでゲームでもしよ?」
「…どうせまた、俺の圧勝だろ?」
「やってみなくちゃ分かんないでしょ!?ほら、はやく!」
キラは急かせるようにして俺の背中を押し、家に招き入れた。
こうして、自然と家の中に出入りできるのも、幼なじみの特権といったところだろうか。
「じゃ、ジュース持ってくるから、ゲーム立ち上げといて?」
そう言ってキラは、いつものように台所へ向かった。
俺はゲームのスイッチを押して、ベッドにもたれ掛かってゲームが立ち上がるのを待った。
(もしも…)
…もし、キラも俺と同じ気持ちで、俺のことを幼なじみ以上に思ってくれたら…それは、どれだけ幸せなことなんだろう。
たとえば、お互いの家に行く意図だって、ただこうして一緒に遊ぶだけが目的じゃなくなって。
“恋人”として、手をつないだり、抱き合ったり…。
(――馬鹿か。俺はっ)
考えれば考えるほど、自分がどれだけ汚らしいか、思い知らされると同時に、わずかな希望などないのだと、自分に言い聞かせた。
そんなこと、あるわけない。
キラは、自分とは違って正常だ。
こんな汚い…間違った感情など、持ち合わせるはずが無い。
「アスラン、お待たせ。準備出来たぁ?」
「…あぁ」
(こんな純粋な目をした奴が、俺なんかと同じなワケがない)
キラは、もって来たジュースを机の上に置こうとして…――――こぼした。
まぁ…それほど珍しいワケでもなかった。
おばさんがいる時は、おばさんがお菓子などを運んできてくれるから、こんな心配は無いに等しいが、キラが持ってくる時は、三回に一回の割合でこぼす。
いつもは俺がギリギリのところで助けるが、今回については俺にそんな余裕すらなかった。
だから、思い切り俺のズボンに浴びたジュースも、やましいことを考えていた俺への罰なのかな、と思った。
「うわぁ!ご、ごめんアスラン!!今、布巾持ってくるから」
慌てふためいて、もう一度台所へ向かおうとするキラに目をやって、俺は思わずキラの腕をつかんだ。
「…何?」
キラは、きゅとんとした表情で言った。
「…いや。お前のほうこそ、べたべたじゃないか」
むしろ、キラのほうが俺より濡れていた。
Tシャツから肌が透けて見えるほどだ。
「ん?あぁ、大丈夫だよこれくら…くしゅんっ」
どこが大丈夫なんだよ。言ってるそばからくしゃみしてるだろうが。
「ったく。全然大丈夫じゃない!ここは俺がやっておくから、お前はシャワーでも浴びて来い」
「でもアスランだって濡れて…」
「俺は後でいいから!!」
「…はぁい」
キラはふてくされた顔をしながらも、風呂場へと向かった。
俺も、台所から布巾を持ってきて、その場の後片付けを始めた。
キラが風呂場へ行ってしばらくすると、部屋にシャワーの音が聞こえてきた。
(…やばい)
キラにシャワーを浴びて来いと言ったことが、結果的に俺の首を締め付けることになろうとは、あの時は思ってもいなかった。
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