ORIGI

□拭いきれないナミダ
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軍での生活は、至って忙しかった。
起床は朝5:30。
食事は食堂があるので、自分でしなくても済むが、洗濯などは、全て自分でやるという事だった。
そして、朝から昼まではたいてい訓練があり、昼食を挟んで、実戦練習等が行われた。
休憩時間は昼食の一時間のみ。あとは、朝から晩までこき使われている。
戦争をしていると言っても、戦場に俺達が出される事はたまにしかない。
命を落としに行くような場なので、あまり行きたくないのも確かだが、この辛い日々を過ごすのも、それ
相当に死ぬほど辛いと思う時だってある。
でもそれは、裏を返せば、ほぼ一日中、彼女と一緒にいる事が出来るのだ。

「上條中尉、落としましたよ」
突然、彼女が俺に見覚えのあるものを差し出した。
「え?あぁ、…ありがとう」
浮かれていたのだろうか。
こんな大切なものを落とすなんて。
「それ、女物に見えますが上條中尉の物なんですか?」
「ん?これか、これは…母の形見だよ」
「お母さんの…?」
「あぁ。結婚指輪。母は俺が小さい頃、病気で死んじまってさ、それ以来、ずっと俺が持ってるんだ」
「…そう、ですか。…すみません」
「いや、そんな気ぃ使わなくてもいいよ。勝手に俺が話し出しただけだし」
一瞬、気まずい雰囲気が流れたが、すぐにそれは崩された。
「隊員、全員集合!!」
隊長の声がかかってから、5秒も経たないうちに全員が整列し終わった。
「突然だが、今から名前を呼ぶものは、明日戦場へ向かう。名前を呼ばれたものは、今日の午後の実践練習には参加せずに、各自部屋で休息を取り、体力を温存しておくように。では、名前を読み上げる」
今まで、この場で名前を呼ばれて、無事に帰ってきたのは、三分の二ほどになる。つまり、名前を呼ばれ
てしまったら、三人に一人、二度と帰ってこられなくなる。
皆、覚悟してはいるものの、はやり、この瞬間は怖いものだ。
「――…竜哉、櫻井勝、山田和人…」
次々名前が呼ばれていく。
名前を呼ばれてしまった者は、表情から不安と絶望が伺える。
「…前野水夜、最後に、上條孝彰、浅野莉那。以上」
そんな……――!!
「ちょ、ちょっと待ってください!隊長!!」
「何だ?上條中尉」
「浅野少尉は、昨日この軍に派遣されたばかりですよ?まだ戦場に出向くのは、いくらなんでも早過ぎると…」
「上條中尉の言い分も分かるが、彼女は“キサカ”の中でもトップだ。“アディス”でも十分に通用する。それに、一日でも早く戦場に慣れるのもいい。今回の戦いは、今までとは比較的に軽い。彼女でも生きて帰って来られる可能性は十分にある。そんなに心配しなくても大丈夫だ」
「…しかし隊長…」
俺が続いて異議を唱えようとすると、当の本人の彼女が口を挟んだ。
「上條中尉、心配してくださるのはありがたいですが、私も隊長と同じ考えです。一日でも早く戦場に慣れたほうがいいと思いますので、私も出ます。足手纏(まと)いになるかも知れませんが…お願いします!!」
「……―っ」
彼女にそこまで言われ、頭を下げられては、首を縦に振るしかなかった。
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