ORIGI

□拭いきれないナミダ
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俺はそれから、隊長の指示通り、部屋にこもっていた。
俺の部屋は二人部屋。
ルームメイトで、同期の櫻井勝も、戦場に狩り出されるうちの一人だ。
俺は二段ベッドの下で、考え込んでいた。
俺が戦場に出るのは、確か5回目だ。
「…そろそろかもな」
俺が死んだら、どうなるんだろう。
母はとっくに病死したし、父は戦場で命を落とした。
俺の死を悲しんでくれる親類はいない。
少なくとも、櫻井ぐらいは悲しんでくれるだろうか。
それとも、櫻井も死ぬんだろうか。
そして、彼女はどうなるんだろう。
彼女は生きて帰って来る事が出来るのだろうか。
そして、新しい教育係を付けられるのだろうか。
どちらにしろ、きっとそのうち、俺の事なんて忘れてしまうだろう。
戦場で散った幾つもの命を、全て悲しんでいられるほど、ここは甘くはないのだから…。
すると突然、上から声がした。
「なんだよ孝彰、トップクラスにいるお前がそんな弱気にならないでくれよ。お前がそんなで、俺はどうすればいいんだよ」
言う事とは裏腹に、明るい声。櫻井だ。
こいつはいつもこんな調子でいる。要するに、どんなに重い話でも、明るく話せる。
ただの馬鹿と言う訳ではないんだ。
こいつのこういう態度は、死と背中合わせの立場にいる俺達にとって、安心するんだ。
でも、それも今の俺には通用しなくて。
「…どうせいつか人は死ぬんだ。それが自然な事なんだよ。早いか遅いかの違いだよ」
「何だよ。そんな暗い事言うなって!!きっと大丈夫だ。お前はきっとまた生きてここに帰ってこられる!!」
櫻井が俺を勇気付けようとしてくれているのは分かる。
でも……―――。
「…戦場に行くのは、もう慣れたさ。でも…いくら俺にだって、怖いもんは怖いんだ。死は自然な事だって理解はしてる。頭では分かってるんだ。でも、いざその状況に立つと……怖くて逃げ出したくなる」
「孝彰…」
「お前にだって分かるだろう?この気持ち」
「………分かるさ。俺にだって。でも俺達は、自分の意思で軍に志願したんだ。今更逃げ出すわけには行かない。それに、大丈夫だよ。お前なら。それにお前、生きて帰ってこなかったら、あのー…なんだ?浅野莉那少尉だっけ?彼女はどうするんだよ?」
「は?」
突然の櫻井の言葉に、驚いた。
―というか、彼女の名前が出てきた事に驚いた。
「何でそこに彼女が出て来るんだよ!?俺はただ、彼女の指導係をしているだけで、彼女とは別にそんな特別な関係は…」
「は?何言ってんのお前?俺は、急に指導係が代わると、彼女か混乱するんじゃないのかって…まさか、お前…彼女の事…?」
櫻井の顔がいやらしく緩んでいく。
「ち…違う!!そんなんじゃない!」
「へぇー?」
「―…っ///」
その時、部屋のドアを叩く音がした。
「誰だぁ?」
そう言って櫻井がベッドから下りて扉を開けると、そこにはたった今話していた、彼女がいた。
「浅野…少尉」
「あの…上條中尉に話があって…、上條中尉、少しお時間よろしいですか?」
「え…あぁ…」
俺が部屋を出て行こうとすると、櫻井がヒジで俺を突付いてきた。
「愛の告白だったりしてな」
―と、彼女に聞こえないくらい小さな声でほざいて…。
「馬鹿」
そう言って俺は、彼女と一緒に外へ出た。
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