ORIGI

□拭いきれないナミダ
4ページ/41ページ

「中尉、先程は私のわがままを聴いて下さって、ありがとうございました。どうしてももう一度、ちゃんとお礼が言いたくて…」
彼女はそう言うと、改まって俺に頭を下げた。
「何だ。そんなことか。あれは俺が出しゃばって、君の意見も聞かずに勝手に言い出ただけだよ。君の意見を最初に聞くべきだったな。だから、礼なんかいう必要はないよ」
「いえ…だってそれは、私の事を心配して下さったからで…。あの時、嬉しかったんです。本気で私の事を心配してくれる人がいて。本当に、嬉しかったんです……。私にはもう、心配してくれる人なんていないと思っていたから…」
「浅野少尉?」
その時の彼女の表情が、一瞬だけ沈んだような気がした。
だが、それは気のせいだったのかもしれない。
「いえ。何でもありません。明日は最善を尽くします!!」
彼女はいつも通り、キリッとした顔で去って行った。
いつでも強い彼女。
いつでも一人で真っ直ぐ歩いていく彼女。
そんな彼女が、少し羨ましく思えた。
俺は彼女ほど、強い人間じゃないから…。



「諸君は今日、今から戦場へ向かう。一瞬たりとも気を抜くな!その時点で命はないぞ」
隊長の言葉が、酷く胸に突き刺さった。
“命はない……――”
数時間後、俺はまた、“アディス”の土を踏めるのだろうか…。
それとも…――。
不安が、消えない。
「たーかーあきっ♪」
「櫻井…お前こんなときでもよく笑顔でいられるな。少し尊敬するよ」
「バーカ!こんな時だから笑顔でいるんだよ。昨日も言っただろ?お前なら大丈夫だよ。必ず生きて帰ってこられる…」
「…あぁ。その言葉、信じさせてもらうぜ。――また会おう。ここで」
そういうと、櫻井は、フッと微笑んだ。
そうだ。
俺達はきっと生きてここに帰って来れる。
大丈夫だ。
大丈夫……――。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ