ORIGI

□Catastrophic Love Story 前編
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「七緒!!こっちだ!」
人が溢れるその中で、自分の名を呼び手を差し伸べてきた人物を見つけると、自然と笑みがこぼれた。
「水也、やっと見つけた」
その手を取ると、温もりが伝わってきて、どこか安心した気持ちになる。彼はそんな人だ。
「もう。置いていかないでよ。迷子になっちゃうじゃない」
「七緒が勝手にどこか行ったんだろ?」
言葉は生意気でも、表情はあくまでも柔らかい。
「しょうがないじゃない。水也とは違ってあたしみたいな一般人には、こんなパーティーなんて初めてなんだからっ!」
二人が今日出席しているパーティーは、院長の息子である水也の家で開かれているもので、簡単に言えば、水也の父の誕生日を祝うものだった。どこで知り合ったのか、金持ちの資産家ばかりが出席している。きっと、誕生日パーティーという名目は表向きで、裏では醜い大人の取引などが行われているのだろう。
一般家庭の七緒にとっては、まるで手の届かない世界だ。
「でも、七緒だって近い将来こんなパーティーなんて嫌というほど出席しなくちゃいけないんだから、今のうちに慣れておいたほうがいいだろ?そう思って今日呼んだんだし」
「そりゃ…そうなのかもしれないけどさ」
顔を赤らめるものの、どこか不機嫌そうに七緒は飲みなれないワインを口にした。少し背伸びしたような、大人の味。味の良し悪しなど、まだ七緒に分かるはずもなかった。
「早く板に付くといいな。俺の未来の妻として」
「……ばか」
二人は高校時代からの付き合いで、大学を出たら結婚の約束をしていた。
もちろん、お互いの親の省略も得ている。所謂、婚約者だ。
「でも…本当にいいのかな?あたしみたいな一般人がこんな…」
今でも時々、夢じゃないかと思うことがある。
毎日高価なものに囲まれる生活、偉い人たちとの食事会。今まで自分が住んでいた世界とはまったく違う新しい世界。そんな世界に、自分は本当に相応しいのだろうか。
「ばぁーか。俺が七緒を好きなんだから、それでいいんだよ。何度も言わせんな」
少し顔を赤らめて言う水也を目にして、七緒ははにかんだ。
この人を選んでよかった。
誰よりも優しくて、誰よりも自分を好きでいてくれる。
この人以上に自分を幸せにしてくれる人は、この世にいるだろうか。そう思わせるほど、彼は自分のことを大切にしてくれている。
「水也、ちょっといいか」
突然、先程まで接客をしていた水也の父が、水也だけを呼び出した。
「ごめん七緒、ちょっと待っててくれ」
そう言って水也は父の元へ駆け寄って行った。
その時目が合った父は、微笑んで七緒に軽く会釈をした。七緒も何度か会ったことがある。院長というだけあって、威厳のあるものの、その性格は穏やかで水也にそっくりだった。きっと水也は、内面は父親に、外見は亡くなった母親に似たのだろう。
未来が約束されている水也にとって、お偉いさん方が集めるこのパーティーは大事なものらしい。
(挨拶回りとか…だろうなぁ)
こういうとき、自分たちの家柄の差を思い知らされる。それは、今更どう足掻いたって変えられない。
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