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□穏やかな日
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「じゃ、サンジくんごちそうさま」
「よしっチョッパー!!さっきの続きしようぜ!!」
サンジの料理でお腹いっぱいになった他の仲間は皆、次々に部屋を後にし、料理ができた頃にはゾロとサンジだけになっていた。
「ったく。何でテメェなんかと飯食わなきゃなんねぇんだよ」
「そりゃこっちの台詞だ」
おまけに使った食材は、ナミ達には食べさせられない腐りかけそうなもの。
そうは言っても、普通の人からすれば味にさほどかわりは出ない。
「…なんかさっきのより地味じゃねぇか?」
「文句あんなら食うな」
黙々と食事を続けるサンジに、腑に落ちない様子を見せながらも、口に運ぶ手は休めない。
「…………」
「…………」
カチャカチャと、食器の音しかしない静かな部屋。
いつもなら、ルフィ達の声で賑わっているのだが、肝心のルフィはお腹いっぱいになった様子で寝てしまった。
(会話ねぇなぁ…)
とは思いつつも、特に話題を探そうとはせず、サンジは黙々と食事を進めた。
「…そう言えば」
ふと、ゾロが思い出したように口を開いたのがきっかけだった。
「いつか聞こうとは思っていたんだが…、お前が探してるオールブルーってなんなんだ?魚の名前か??」
普段人のことにあまり関心をもたないゾロからの意外な質問に、内心驚きながら答えた。
「ちげぇよ。海の名前さ。東西南北すべての魚が住んでいて…」
いつのまにかサンジは、夢中になって語っていた。
その間、ゾロは飽きる事無くサンジをじっと見つめていた。
今までの生意気な顔ではなく、生き生きとした顔を。

10分ほど経っただろうか。サンジははっとして話をやめた。
夢中で語ってしまった自分を急に恥ずかしく思い、冷めた食事を一気に飲み込んだ。
「おいおい、何してんだよ?」
「ゴホッ。…あ、いや―――」
少しむせて、水で喉をすっきりさせた。
「……『だから』…?」
「…?」
明らかに会話に噛み合わない単語を発するゾロに、サンジは首を傾げた。
「さっきのお前の話の続きだよ。『だから』何なんだよ?」
サンジは、あぁ。と納得し、ゾロが真剣に自分の話に耳を傾けていたことに驚く。
「『だから』俺は今、ここにいるんだ―――…」
「…見つけられると、いいな…」
夢が、叶うといい。
ゾロは「ごちそーさん」と言い残し、部屋を後にした。
(なんだぁ?あいつ…)
やけに素直なゾロに驚く。
しかも、自分の夢の後押しまでしてくれた。
(……気色わりぃ…)
いつものゾロなら、話を聞いている途中で寝てしまうだろう。
嵐にでも巻き込まれるかな…。なんて、少し心配してしまう。
(でも…)
サンジは、知らず知らずのうちにはにかんでいた。
うれしい。なんて、死んでも言ってやりはしないけど。






(ホントに…嬉しそうな顔しやがって…)
部屋を出た途端、顔が熱くなるのが分かった。
(あと一秒、遅かったらヤバかった)
ゾロは、震える手をぎゅっと握った。
もう少し。もう少しで、あの細い躰を抱き締めてしまいそうだった。
骨が折れるほど抱き締めて、めちゃくちゃに抱いてしまうところだった。
だけど、そんなことをしても奴の心は手に入らない。
(俺にしては珍しく大事にしてると思うんだけど…?)
だから、早く気付け。くそコック。

まだゾロへの気持ちを自覚していないサンジと、サンジへの想いを押さえているゾロ。
二人の関係が救いようの無い未来に差し掛かるまで、そう長くはないだろう。

だけどそれは、また別の話―――…









END
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