魔法少女リリカルなのは〜不屈の心と鋼の後継〜

□〜キリランシェロと高町なのは〜
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キリランシェロが高町家での居候生活を始めて2週間が経過した。両親が突然連れてきた素性が知れない少年に高町家の子供たちは当初は困惑したものの、順応性が高いのか、すぐに親しんでいった。


キリランシェロに与えられた部屋は、高町家の客間の一室。彼が『牙の塔』で与えられていた個室よりは狭いが、石で造られた部屋とは違って和室であるせいか居心地が良くて気に入っていた。その部屋の中央で布団を敷き、睡眠をとっている。
「キリランシェロ君、朝ご飯出来たわよー」
「はぁい・・・」
キリランシェロの朝はそれなりに早い。高町家の子供達の中で一番早く家を出るのは高校生の長女・美由希、次に小学生の次女・なのはだ。高町夫妻も店に出る為この時間に朝食を取り、夫妻の経営する店で働くキリランシェロの起床もこの時間ぐらいになる。
キリランシェロの寝巻は黒のタンクトップに短パンと黒一色。自然と手が伸びた一品で、『黒』魔術士が『黒』を選ぶのは性なのかな、と思った彼だった。


「キリランシェロ君、3番テーブルのお客さんにケーキセットを」
「あ、はーい!」
「ウェイターさーん!」
「今行きまーす!」
高町夫妻が経営する喫茶店の名は『翠屋』という、海鳴市内では評判の店だ。住み込みで働く事になったキリランシェロは日々お盆を片手にクルクルと忙しそうに動き回っている。
「なかなか、真面目に働く子じゃないか」
レジでお客の会計をしていた士郎は、忙しそうに動き回る黒髪の少年を目を細めて眺めている。この2週間、あの少年はよく働いた。始めこそなれない接客業に戸惑っていたようだったが、コツを掴んだのか4日もすると皿洗いはもちろん、オーダー聞きやレジ打ち、自然と接客スマイルを浮かべることが出来るまでに成長していた。容姿も悪くないため、女性客から密かな人気がある。もっとも本人は気が付いていないようだが。
(ただ―――)
一つだけ気にかかる事があった。それは、家族の誰も気が付いていない裏社会に身を置いていた彼だからこそわかる事。あの少年が要所で見せる身のこなし。あれは―――
暗殺者の、それだ。


高町家の末娘・なのはは塾に向かう途中、脳裏に自分を呼ぶ声が響いた。
≪助けて・・・≫
「なんだろう・・・?」
彼女はその声に導かれるままに歩を進めていくと、そこには傷ついた一匹のフェレットらしき生き物が。
「あなたが、私を呼んだの?」
なのははフェレット(?)を抱き上げて話しかけるが、小動物は気絶したのかぐったりとしていた。
「と、とりあえず動物病院に連れて行かなきゃなの!」


フェレットらしき小動物を病院に預けたその日の夜、寝支度を整えていたなのはの脳裏に再び『あの声』が彼女の脳裏に響いた。
≪お願い、誰か・・・助けて・・・≫


(ん・・・?)
うつらうつらと夢の世界の住人になろうとしていたキリランシェロは、玄関からかすかに響いた扉が開く音に一瞬で意識を覚醒させた。
キリランシェロは音も無く布団から抜け出すと、タンクトップと短パン姿でまず家人の気配を探る。ちなみに今高町邸には夫妻とキリランシェロ、末娘のなのはしかいない。上2人はそれぞれの友人宅に泊まっていて不在だ。
(士郎さんと桃子さんは部屋で寝てる・・・)
足音を忍ばせて夫妻の寝室前を通るふりをして気配を探る。夫妻は寝息を立てて寝ている事が確認できた。しかし―――
「なのはが、いない・・・?」
なのはの部屋の戸が開いており、眠っているはずの末娘の姿がない。侵入者の気配が感じ取れない事から、消去法で家を出て行ったのはなのはだという事になる。玄関に下りてみると彼女の靴がなく、さきほどの玄関の物音がなのはだという事は決定的になった。
「ほっておくわけにもいかない、か。それに―――」
なにやら嫌な予感がする。悲しい事に、こう言う時の彼の勘は外れた事がなかった。


フェレットを預けた槙原動物病院付近で黒い影に追われているフェレット『ユーノ』に出会い、彼から事情を聞いた。彼はこの世界とは別の世界から『ある物』を探しに来たという事。『魔法』なる摩訶不思議な力がある世界から来た事。そして―――
「君には魔法使いの資質がある。この『レイジングハート』で僕に協力してくれませんか!?」
彼の願いに、なのはは決断した。彼に協力する事を。


「っなんだ!?」
強い『なにか』を感じたキリランシェロは、そちらの方向に向かう。確かこちらには、動物病院があったはずだが・・・?
「あれは、なのは・・・?」
見慣れぬ白い服と、宝玉が乗せられた長い杖を手に持ったなのはが尻もちをついて黒い影を見上げていた。
その黒い影の爪が、なのはに襲いかかる―――!


「きゃあっ!」
なんとか展開させた防御結界の魔法があっという間に砕かれ、勢いに押されたなのはは尻もちをついてしまう。さきほどから黒い影に押されていたが、彼女の身体を覆う白い『バリアジャケット』に守られて幸い無傷だったが。
「あ・・・」
その彼女に爪をむいて襲いかかってくる黒い影―――
≪なのはさん!≫
「―――っ!」
ユーノが叫ぶが彼には打つ手はない。なのはは堅く目を瞑り、来るべき衝撃に覚悟を決めた―――

その時だった。

「我は放つ―――」

最近彼女の家で居候をしている少年の声が聴こえてきたのは。

「光の白刃!」

なのはを切り裂かんとした黒い影に光の熱波が直撃。黒い影はもんどりうって吹き飛ばされる。
「あ・・・!」
なのはが尻もちをついたまま振り向くと、そこには高町家居候の少年・キリランシェロが右手を掲げた姿で立っていた。
「大丈夫?なのはちゃん」
「う、うん・・・」
ここで2人は真の意味で出会う事になる。

後に『エース・オブ・エース』と称えられる事になる高町なのはと、キエサルヒマ大陸最強の男の後継者たる『サクセサー・オブ・レザーエッジ』キリランシェロが―――

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