魔法少女リリカルなのは〜不屈の心と鋼の後継〜

□〜なのはともう一人の魔法少女〜
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「よし、じゃあ今日はここまでにしようか」
「ありがとうございました!」
少しばかりバリアジャケットが煤けたなのはが、キリランシェロに礼をして特訓が終了する。現在2人がいるのは早朝の公園。結界を張り巡らせたこの公園の広場でなのははキリランシェロに格闘術と射撃訓練とその回避訓練を受けていた。
「なのはも最近、回避できる頻度が増えてきたね。最初の方は結構黒焦げになってたのに」
なのはがバリアジャケットを解いたのを見計らって、ユーノが結界を解除しながら最近の彼女の成長ぶりを評価する。
「・・・もうっ、それは言わない約束なの」
確かに彼女は素晴らしい成長ぶりを見せていると、キリランシェロも思っている。格闘術に関しては生まれ持った運動神経の鈍さが手伝って苦戦している。しかし射撃面に関しては天賦の才とでも言うべきか、日々素晴らしい成長を見せてユーノとキリランシェロを驚かせている。ただ―――とキリランシェロは思う。
(戦うにはこの子は優しすぎる―――甘すぎる。それがなのはの命取りにならなければいいけど・・・)
その当人はキリランシェロが無意識に置いた手に頭を撫でられて気持良さそうにしているが、そんな彼の予想は悲しくも的中してしまう。もう一人の魔法少女の出現によって。



キリランシェロが業務の終わった翠屋で後片付けをしていると、なのはが店にやってきた。
「月村さんの家にお呼ばれされた?」
「うん。それでね、キリランシェロ君もどうぞって」
どうやら明日、なのはは親友の月村すずか―――弁当を届けに行った時に一緒にいた村再キロの髪の少女らしい―――の家にお茶会に招かれ、それに『この間のお兄さんもどうですか?』と誘われたらしい。ちなみにすずかの姉が恭也の恋人であるらしく、彼もいっしょに行くそうだ。
「うーん、まぁ、行ってみようかな・・・」
この世界での知り合いを増やしておくのもいいだろうし。


月村邸。そこは―――
「こ、これは・・・」
にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー
右下を見渡しても猫。左下を見渡しても猫。前も後ろも猫。猫屋敷だった―――
「すごいね・・・」
「すずかちゃんの家は猫でいっぱいなの」
相変わらず上下黒の服とズボンで唖然とした様子で座り込み、膝に乗った猫を撫でている彼になのはは笑う。そしてふと、視界の隅に黒いピアノが入った。
「あ、それ私の家に昔からある物なんですよ」
キリランシェロの視線に気がついたのか、すずかが説明をしてくれる。昔からある物にしては、中々手入れがなされていて傍目から見ても状態が良い事が分かる。
「あれ、ひょっとしてアンタピアノ弾けるの?」
キリランシェロ同様、膝に猫を抱いたアリサが不思議そうに質問する。
「うん。まぁ一応・・・」
「じゃあ弾いてみてよ!」


月村邸に少年が奏でるピアノの音が響き渡り、少女達と猫に怯える小動物がその音に聞き入っていた時だった。
≪なのは!キリランシェロ!この家の庭からジュエルシードの反応が!≫
≪ど、どうしようユーノ君!≫
≪・・・そうだ、ぼくがこの部屋から逃げ出すからなのはは僕を捕まえる体(てい)で部屋から抜け出して≫
確かに小動物のユーノが逃げ出し、なのはがそれを追うという状況は別におかしくもなんともないシチュエーションだ。
≪うん、わかった。でも、キリランシェロ君はどうするの?≫
なのははチラリとピアノを奏でる少年に視線を送る。キリランシェロはなのは達を一瞥して念話を飛ばす。
≪僕はこの演奏が終わったら君たちを追うから、先に行ってて≫
確かに急に演奏をやめてなのは達を追うのは明らかに不自然だ。
≪わかった・・・なのは、行くよ≫


バリアジャケットをセットアップし、レイジングハートを起動させてジュエルシードの跡を追い裏庭に出たなのはを出迎えたのは、巨大な子猫だった。
「なに・・・これ・・・」
≪たぶん、子猫の「大きくなりたい」っていう願望が叶ったんだろうね・・・≫
見上げるほど大きくなった子猫に、唖然と見上げるしかない2人。しかし相手は巨大でも子猫である事に変わりはなく、下を見下ろして見つけた小さなイキモノに興味を示したのか巨大になった前足で軽く触れようとする―――が、ビッグサイズになり力加減も出来ない子猫の前足は、子猫にとっては昆虫くらいの大きさであるなのはには脅威となりうるのだ。
「危ないっ!」
「にゃあっ!?」
ユーノの警告とキリランシェロの魔術の乱射で鍛えられた生存本能に従って飛びのく。しかし、子猫は目の前の小さな生き物がバッタのごとく飛んで逃げる姿にさらに興味をそそられたのか、好奇心を瞳に宿してまたなのはを潰さんとする―――
しかし、子猫の大きな体は何処からかとんできた雷光に吹き飛ばされた。
「な、なに―――?」
≪なのは!あそこ!≫
ユーノが指さした先―――そこには、黒のバリアジャケットを纏った金髪の少女が宙に浮いていた。
「ジュエルシード、頂きます」
デバイスから光の刃を出現させた少女は、宣言してなのはに切りかかった。


2人の魔法少女が戦いを繰り広げている頃、キリランシェロは月村邸の庭で戦いの流れを見守っていた。戦いは金髪の少女が優勢に進めており、彼女が戦いなれている事を示している。
「―――助けなくていいのかい?あの娘はアンタの仲間だろう?」
「ええ」
背後からの声に反応してキリランシェロが振り返ると、そこにはオレンジ色の髪の少女が立っていた。
「驚かない・・・ってことはアタシに気付いていたんだね?」
「まぁ・・・ね。あなたはあの金髪の子の関係者?」
キリランシェロの問いに、少女は誇らしげに胸を張って答えた。
「アタシはアルフ。あの子―――フェイトの使い魔。アンタはキリランシェロ、だろう?」
初見の少女が自分の名前を言い当てた事に彼は軽く驚く。しかし、その動揺を相手には見せない。
敵対者との戦いは―――感情を表に見せたら負けだ。
「どうして僕の名前を知っているんだ?」
「・・・アタシ等のボスにね、アンタに気をつけろって言われてんだよ」
アルフはなぜか忌々し気に吐き捨てる。その時中庭の方で、ひときわ大きな爆音が轟いた。
「決着がついたみたいだね」
「勝ったのは・・・そっちみたいだね」
キリランシェロの言葉通り、土煙が晴れた後に倒れていたのは白いバリアジャケットを纏ったなのは。黒衣の少女・フェイトは何事も無かったかのように―――いや、その瞳に申し訳なさそうな感情を宿して、転移の魔法を起動して消え去った。
「さて・・・アタシも帰るかね。役目は果たしたし」
そう呟いて、アルフも去っていった。『役目』とは恐らく自分の足止めだろう。
(これで、解ったかな・・・なのはも)
キリランシェロは目的を同じとし、敵対するフェイトを確認すると彼女の援護をしない事を決めた。それは、彼女を思っての事だった。
(なのはは戦う者としては優しすぎる・・・一度、あの子には敗北を体験させて意思の確認をさせた方がいいかもしれない)
敗北とは恐ろしいものだ。圧倒的な力の前に自らの命を握られ、生殺を敵手に委ねられる・・・幸いあの少女にはなのはを害するつもりはなかったようだが、戦いの世界に身を置く以上、彼女の様な優しい敵ばかりが立ちはだかるとは限らないのだ・・・
キリランシェロには両親が、家族がいなかった。だから否応なしに『牙の塔』に行き、戦いの世界に身を置くしかなかった。たまたま自分に悪運と(自分で言うのもなんだが)才能があり、15年間生きてこれたが、彼女は選択肢がある。戦いから縁のない、平穏な世界で生きるという選択肢も―――
願わくば―――助けてもらった恩人の娘が、平穏な人生を歩んでほしいと願うキリランシェロだった。

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