魔法少女リリカルなのは〜不屈の心と鋼の後継〜

□〜謎の人物と温泉旅行!(下)〜
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夜の海鳴温泉街、人里離れたその場所で2人の魔法少女は戦いを繰り広げ―――決着がついた。
敗北を認めたなのはのデバイス『レイジングハート』が、主たる彼女を守る為に収容していたジュエルシードを放出する。なのはの首筋に魔力の刃を突きつけた金髪の少女に。
「・・・きっと、主想いのいい子なんだね」
ジュエルシードを受け取った彼女は、そう呟いてなのはに背を向ける。
「あの!・・・あなたの、名前は?」
なのはの問い掛けに、金髪の少女は振り返って静かに自分の名を告げる。
「・・・フェイト。フェイト・テスタロッサ」


「フェイトちゃん、か・・・」
金髪の少女―――フェイトが転移魔法で去った後、なのはは少女の名前を口の中で反芻した。レイジングハートの柄を握りしめ、力強く相棒に呟く。
「レイジングハート」
≪はい、マスター?≫
「頑張って、あの子とお話しできるくらいに強くなろうね」
≪もちろんです。私も全力でマスターをサポートします≫
月が見守る中で、魔法少女とその相棒は決意を固める。


「・・・そういえばユーノ君、キリランシェロ君は?」
≪さぁ・・・?≫
2人が首をかしげていると――――パァン、と乾いた破裂音が周囲に響き渡った。2人は顔を見合わせ、『何の音だろう?』と首をかしげたが、音の正体に気がついたユーノが顔を青ざめさせてなのはに告げた。
「なのは、あれは拳銃の音だよ!キリランシェロがまだ来ないし・・・何かあったのかも!」
「行こう、ユーノ君!」


なのはがユーノとともにジュエルシードの後を追って出て行ったころ、キリランシェロもまた旅館を抜け出していた。ただし、なのはが向かった方向とは少し変えて。
「出てきなよ。この前からずっと僕をつけているのはわかっているんだ」
「・・・さすがはあの男の後継者というわけか」
森の中でキリランシェロは、覆面を纏った暗殺者と対峙する。声色やボディラインから女だという事がわかる。
「あんたは?」
「キムラックから来た者・・・といえばわかるか?」
彼女の発した地名に、キリランシェロは彼女の正体を見出す。彼ら魔術士と対立する最大勢力が放つ刺客―――
「死の教師・・・か」
「御名答。我が名は死の教師候補レベッカ・リンスカム・・・そして、サヨナラだ!」
彼女は地を蹴って跳躍し、こちらに躍りかかってきた!そして、鞘から剣を抜いて一閃!
「くっ!」
キリランシェロは飛びのいて回避するが、前髪が少し裂かれた。彼女が持つのは月光を反射する不可視の刃をそびえし剣―――
(死の教師の、ガラスの剣か)
大陸に8振りしかない、教主ラモニロックが授ける精鋭のみが携える事を許された武器―――それがガラスの剣だ。『候補』と名乗っているのにもかかわらずガラスの剣を携えているという事は相当の実力者というわけだろう。
(暗殺者と戦うときの心得―――『出来るだけ、身動きするな』)
キリランシェロは人差し指を突きつけ、突進してくる敵に叫ぶ!
「我が指先に琥珀の盾!」
突進してくる暗殺者は突如現れた空気の壁に徐々に押し戻され、ついには転がされる。さらにキリランシェロは追撃の一撃を放つ。
「我導くは死呼ぶ椋鳥!」
ヴヴッと音を立てて、敵に突き付けた指先から超音波が放たれる―――が、暗殺者はとっさに飛び退いてそれをかわす。
暗殺者とは、必ず何らかの勝算を持ってターゲットを殺しに来る。彼らが仕掛ける策にかからない為には動かない事が重要。実のところ、暗殺者やドラゴン信仰者による魔術士の殺害率というのはそんなに高くはない。
最大の理由としては、やはり魔術士には魔術という最大の武器があるからであろう。キリランシェロ自身も、師が客を装って現れた暗殺者を椅子に座ったまま討ち滅ぼしたのを目の当たりにした事がある。



(さすがは『鋼の後継』といったところか・・・)
レベッカは覆面の下からターゲットを睨みつけた。彼女自身も認めざるを得なかった―――暗殺対象は相当に手強い。ガラスの剣や隠し持っている投擲用のナイフでは仕留める事が出来ないだろう。
(これ以上長引くとこいつの仲間が現れる可能性がある・・・あれを使うしかないか)
レベッカは懐に隠し持っていた秘密兵器を取りだした。


暗殺者が懐から取り出したのは、黒の無骨なフォルムの大陸最新兵器たる『拳銃』だった。本来拳銃を所持できるのは王都の騎士だけであるはずだが、『牙の塔』やキムラックでも秘密裏に製造されており、キリランシェロ自身も拳銃の訓練を受けた事がある。
(拳銃かっ)
立てつづけに乾いた銃声がパンッ、パンッと鳴り、弾丸が放たれる。命中すればターゲットに死を与える弾丸をキリランシェロは回避しながら近づいていく。
「チッ・・・!?」
暗殺者は恐らく熱で暴発する危険が出てきたのだろう拳銃を放り捨て―――大陸の拳銃の精度はそんなに高くはないのだ―――格闘戦でこちらを迎え打つ様子だがもう遅い!敵が放った蹴りを一歩引いて回避し、懐に潜り込んで軽くポンと拳を腹に押し付ける。
「残念だったね・・・なんであなたがこの世界にいるかは知らないけど、僕を殺すには実力不足なんじゃないかな?」
「貴様・・・!」
「僕の接近戦用の切り札『寸打』。この状況を打開できるならやってみなよ」
キリランシェロは低くした姿勢のまま、頭で暗殺者の腹を押す。反射的にレベッカも押し返したところで――――
爆発的な瞬発力を発揮させ、キリランシェロの拳はレベッカの腹を打ち抜いた。
「があっ・・・!?」
吹き飛ばされる暗殺者。地に伏したレベッカは身体を『く』の字に折り曲げて悶絶している。
「勝負あったね」


「ぐ・・・はぁっ・・・」
レベッカは荒い息を吐きながら、それでも必死に立ち上がって戦おうともがいていた。
(私は・・・教主様の御為・・・まだ・・・負けるわけにはいかん!)
彼女を戦いに駆りたたせるのは、ひとえに教主ラモニロックへの忠誠心と信仰心。そして、候補生にすぎぬとはいえ『死の教師』という選ばれた存在であるという誇り―――
「このぉ・・・」



キリランシェロは驚きを隠せずにいた。鳩尾を打ち抜かれて悶絶していたはずの暗殺者がゆっくりと起き上がり、こちらと相対したのである。
「・・・わけには・・・」
「?」
「私は、貴様らに負けるわけにはいかん!」
レベッカは懐から何かを取りだすと、それを真下に叩きつけて煙幕を炸裂させた。
「わっ!?」
視界が奪われ、死角からの奇襲を警戒するが気配はすでに去った後であった。そして新たに来る気配は慣れ親しんだもの。
「わーっ、すごい煙なの!キリランシェロ君、どこなの〜?」
どうやらなのはが迎えに来たらしい。恐らくは負けたのだろうが。
(ま、鍛えなおしかな・・・)
旅行から戻ったらなのはを鍛えなおす事を決めつつ、キリランシェロは弟子のもとに歩み寄って行った。

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