短編

□first love
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学校帰り、私は猿比古と一緒に帰っていた。

じゃあまた明日ねと
いつもならそう言って別れるはずなのに
今日の猿比古は違った。

いきなり私の手を掴んだと思ったら
何も言わず、しかし機嫌の悪い顔をしながら見つめている。
手を握る力が少し強いのか手首がキリキリと痛む。


「…ど、どうしたの?」

「…さっき、」

「さっき?」


「昼休みのとき隣の組の男に呼び出しされてただろ?あいつと何話してた?」

「…話した内容をなんで猿比古に教えなきゃなんないの」

「いいから教えろ」

確かに今日の昼休み、隣の組の男の子に呼び出しされた。
しかしそれを言ったらマズイことになるだろう。確実に。
普段と違った雰囲気の猿比古に私は少しの焦りと緊張を覚えたが、
こちらも負けじと対抗するしかない。

「さ、猿比古に関係ないよ。そしてそれを教える気もないし」

すると猿比古はさっきよりも険しい顔で
私を近くの壁に押しつけた。
顔の横に片手をつき、逃げようにも逃げられない状態だ。


「言えよ。何て言われた」

「っ…いやだ。言ったら猿比古絶対怒るよ」

「俺が怒るようなことなんだ?」

「うっ…」

墓穴を掘るとはまさにことことだ。
いらないことを言ってしまった気がする。
猿比古が一瞬しめたとばかりに
にやりと笑ったのは気のせいだろうか。

「…はあ…付き合って下さいって…言われた」

「で?お前は何て答えたんだ」

「ごめんなさいって、断っておいた」

「そのあとあいつは何て?」

「明日また…昼休みに来るから、それまでに
付き合ってくれるか考えておいてって…」

「それでお前は明日どうするつもりなんだ」

「さっきと同じ。断っとくよ」

なんだこの誘導尋問みたいなのは!
私はそうツッコミたい衝動を抑え、
猿比古の顔色を伺いながら答えた。

「ていうか…今日の猿比古、なんか変だよ。
いきなりこんなことしてなんのつもり?
告白することはそりゃああるかもしれないけど…
される側なんてそうそうないんだからね!」

すると猿比古はチッと舌打ちをして
苦虫をつぶしたような顔をした。

「昼休みお前に告ってきた奴もムカつくけど、
お前のことで俺が知らないことがあると
すげーイラつく」

「え…え?」

そういうと猿比古はあろうことか
私のシャツのボタンを外し、鎖骨に顔を近づけて
キスマークを付けた。

「//な、ななななな何してるの猿比古…!!
ここ住宅地だよ!?誰かに見られたりしたらどうするの!」

「そんなこと心配するなんて、随分余裕じゃん」

「い、いや、そういうわけじゃ…」

「今付けたやつ…わかるよな?」

「ええ!?…え、ええと…なんだろうなあ…?
あは、あははは…」

すると猿比古はハア…と呆れたように溜息をついて言った。

「それはお前が俺のものだって印。
だから、他の誰とも付き合えない。俺としかな」

「え?…で、でも私たち、別に付き合ってるわけじゃ…」

「お前はどこまで鈍感でバカでアホなんだ」

「ちょっと!言いすぎじゃないそれ!?
鈍感はともかくアホはいらないでしょ!」

「じゃあバカはいいんだな」

「それもちがあああう!!」



すると猿比古は少し笑ってこう言った。

「好きだ、名前。他の誰よりも。俺と付き合え。拒否権はねーぞ」


「…もっとロマンチックな告白の仕方はないの?」

私が苦笑いすると、猿比古はまたもや舌打ちをした。

「悪かったな。こんな告白で」

「いやいや、うれしいよ。私も、猿比古のこと、大好き」


そして私たちはオレンジ色の綺麗な夕日の下、
初めてのキスをした。


(お前みたいなやつを好きなもの好きは俺だけでいいんだよ)
(さっきからひどすぎじゃない!?)

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