Heart Beat

□今日からお世話になります
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(黒子side)

朝からクラスではなんでも超美人の転校生が来るとかで話は持ちきりだった。
特に男子は異常に騒いでいた。
ああ、だからか。
自分の隣の席が一つ開いていたのは。
すると同じクラスで同じ部活の仲間である
青峰君がこちらに来て話し始めた。

「なあテツ、転校生が来るんだとよ。」

「知ってますよそれくらい。朝から皆騒いでるでしょ。そういう青峰君こそどうなんです」

「何がだよ」

「転校生ですよ、噂だとかなり綺麗な人なんだそうですよ」

「んー?ああ、俺は別に興味ねえなあ。…あ、巨乳だったら考えてもいいけど」

「青峰君はその趣味相変わらずですね。中学生のくせに」

「お前も中学生だろうが」

青峰君こそこう言っているが、
別に誰が来たってほとんど人に気づかれることのない僕は一番関係のない話題だった。
ただの転校生、ただの女子、
…最初はそう、思っていた。

僕は最近手に入れた文庫本を取り出し、読み始めた。
すると教室に担任が入ってきて転校生が来ることを説明し始める。
そして、クラスにその本人が来るや否やクラス中はどよめき始めた。
僕は一瞬だけ、ただ興味本位で彼女を見た。
かなり整った顔立ち、赤い髪、すらりとした手足は
まるで黄瀬君に劣らない(彼と比べていいのだろうか)くらい綺麗な人だった。
モデルじゃないんだろうか。
というくらいである。

あれくらい派手な人なら隣に来ても
影の薄い僕には気づくことはない。
そう思いながら再び本を読み始めた。
彼女の紹介が終わったのか隣の席へ歩いてきたと思うと、
想像していたのとは裏腹に、信じられないことが起こった。

『ねえ、何の本読んでんの?』

…ウソだ。

初対面の人は先ず僕に気づくことはあり得ない。
今までそんなことは一度もなかった。
バスケ部の皆さえ、なかったことなのに。

僕は驚きのあまり、動揺して一瞬とまどった。

「…え、ああ、この本の事ですか?」

『当たり前だろ。本ってそれしかない』

その真っ直ぐとした目はこちらに向けられていた。
別に、何かを探ろうとしているわけではない
真っ直ぐすぎる視線に違う意味でも戸惑った。
自分で言うのもなんだが僕がここまで動揺するなんて、
何者なんだろうこの人は。

「…蜘蛛の糸です」

『それ…最後どうなるか誰でも知ってるよね』

「ですが、文章がいいんです、この人の。
結末は知ってても読みたいっていうか」

『ふーん。あっそ』

なんだそれ、随分と冷めた返事だ。

「聞いてきたのはあなたなのに、随分そっけない態度ですね」

『別に、何読んでるのか聞きたかっただけだから』

彼女はまだ此方を見ている。
正直今は目を合わせたくないと感じ、
僕はは再び本に視線を落として読み始めた。
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