Heart Beat

□激動の朝
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あたしが帝光にきてから2日目。

教室に入るともうすでに居る黒子とあいさつをかわし、
今日の一時限目は数学か、かったるいなあ
とか思いながらあたしはトイレへ行こうと席を立った。
廊下を歩いてつきあたりだよね確か…
そう考えながら角を曲がった時だった。
人が来るとは思ってなかったあたしの不注意で
誰かとぶつかってしまったのだ。
ぶつかったのは結構背の高い男子。
あたしとぶつかってもびくともしなかった。

『あ、すいません、大丈夫ですか』

「おっと、ああ、大丈夫だぜ。…って確かお前うちのクラスの転校生だよな」

『…ごめん、クラスにいたっけ』

「俺の事見てもいねーんだな」

『まあ、そういうことになるね』

さすがに苦笑いされた。

「俺は青峰大輝だ。よろしく。
…あ、俺のことは大輝でいいからな。変わりにお前のことは柚樹って呼ぶから」


『は?なんで「じゃーなー」…オイ』

そう言って彼は教室へダラダラと歩いて行った。

あたしの意見は無視か。
(仮にも)初対面でいきなり名前呼びとか
海外じゃあるまいし。
今関係ないけど肌黒いな。
黒子と並べたらオセロ出来そう。ブフッ。




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トイレから戻ってくると、黒子とさっっきの青峰とかいう男が話していた。

「吉谷さん、お帰りなさい」

『おー…って、なんかあんた達2人が話してるって意外だね』

「…僕のこと影薄いとか地味とか思ってます?」

『よくわかったな』

「ストレートで言われると傷つきます」

いつも無表情の黒子が若干イラついているような目をしていた。

『ごめんごめん』

「テツと俺、同じ部活仲間なんだよ」

『部活?え、でも青峰…「大輝な」……だ、いきは運動部って感じだけどさ、黒子と同じって』

「失礼ですね。僕、これでも一応バスケ部なんですけど」

『まじかよ』

いやほんとにまじかよ、だ。
こいつにバスケができるとは意外すぎて。
よく見たら黒子も大輝も腕や脚に結構筋肉がついていて
毎日かなりハードな練習をしているんだろうと想像できた。

実はあたしもバスケをやっていた。
最近は…まあいろいろあってバスケから離れていたのでボールに触れていない。
もしかしたら感覚が鈍っているかもしれない。
…でも別にバスケをやっていたことを今こいつらに教える必要もないな。

『結構ハードなんだろ、練習』

「え、どうしてですか?」

『腕とか体全体的に筋肉付いてるから…なんつーか、まあなんとなく?』

「でも柚樹の言うとおりだぜ。まじであの練習はきつすぎだっての」

大輝は苦笑いして、でもそれが苦じゃないくらいバスケが好きなんだというようなきらきらした目で話していた。


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それからというもの、しばらく3人でバスケの話をしていると
突然廊下のほうで女子たちの叫び声が聞こえた。もうあのレベルでは黄声ではなくおたけびのほうがしっくりくる。

よく聞くとキャアーー!!!きせくうううううん!
と言っているようだ。
きせ?誰だろう。女子がああなっているということは男か。

「来たなアイツが」

「ええ。来ましたね」

2人ともそう言うもんだから何か大物なのかと思ってしまう。

『何が来たの。っていうか、きせって誰』

すると2人が驚いて、大輝に関してはハアァ!??
と声を荒げて驚いている。

「お前、黄瀬知らねーの!?」

「青峰君、吉谷さんは向こうが長いから黄瀬君のこと知らなくて当たり前じゃないですか」

大輝はなるほどといったような顔をする。

「そっかー、お前日本帰ってきてまだそんな経ってねえからわかんねえか」

そして黒子が付け加えるように説明し始めた

「黄瀬君はモデルなんです」

『モデルぅ?…それがどうしたんだよ』

「雑誌に出始めてから瞬く間に有名になって今や売れっ子モデルってとこですかね。
モデル業が休みで学校に来るといつもああなります」

「ってかテツ、すげー詳しいんだな黄瀬のこと」

「桃井さんから聞きました」

『ももい?』

「バスケ部のマネージャーをしている人です」

『ふうん』

さしてどちらも興味無いのでとりあえず受け流しておいた。
黄瀬?なんかとくにさ、モデルだからって特に特別ってわけでもないでしょ。
ほんと、どーでもいー。
と、あたしは一つため息をはいて机で頬ずえをついた。

すると教室のドアが開いたと思うと小春が入って来た。
それも、かなりの興奮状態で。

「柚樹!!おはよう!」

いつものように抱きついてくる。
今日は一段と力が入ってて苦しい。

「あ!黒子君と青峰君もおはよう!」

「おーっす」

「おはようございます」

…ん?なんで仲よくあいさつしてるんだ?君たち。

『2人も小春と知り合い?』

「あっ柚樹には言ってなかったんだっけ」

『何が?』

「あたしね、バスケ部に入ってるんだー」

『まじ?いつの間に』

「バスケは一緒にプレーできないけど、黒子君と青峰君は同じバスケ部として友達なの!」

なるほど。小春はこっちに来てもまだバスケ続けてたんだな。
この短期間にバスケやってるヤツらに囲まれるなんて、なんだかある意味すごい。

「って、そうじゃなくて!!!ちょっと、柚樹、キセリョが!来たの!学校に!」

『………は』

「私、あんなに近くで見たの初めて!今度サイン貰おーっと」

「小春さんは大の黄瀬君ファンですもんね」

小春もさっきの取り巻きたちに混ざってたのか。
確かにもうメロメロ〜な感じ出てるもんな。
ついにお前もそちら側か。

…っていうか、
なんだろうこの脱力感は。
学校に来たばっかりなのになんだか疲れた。
黄瀬のせいだ、覚えてろよ。

「柚樹!せっかくだし見に行こうよ!」

『ハァ?…なんであたしが』

「いいからいいからっ、ほら立って!」

『あーもー』

小春にズルズルと引きずられていくようにして教室を出た。




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やって来たのは2つ隣の教室の前。

目の前には(主に女子たちの)大勢の人だかりができており、
そこのクラスの人は入るのに苦労していた。
女子にもみくちゃにされて苦しそうだ。
…ご愁傷様です、心中お察しいたします。

「あっいたいた、あそこ!ほらあの窓際から『言われなくてもなんとなくわかるよ。
あのスゲー目立つ髪のやつだろ』

「そうそう!よくわかったね」

『明らかアイツだろ』

モデルだからなんとなく雰囲気でわかる。
というか髪。あの髪の色は何なんだ。
金髪?いやあれは黄色のほうが正しいだろう。
とはいってもこちらから見ると後ろ姿は見えるが顔は見えない。
彼と同じクラスの女子たちが早速周りにたかっていて、おそらくそれに笑顔で受け答えしているんだろう。
モデルというのも大変なものだ。
まあ、彼が自分で選びとった道なのだから此方がどうこう言う筋合いはない。

しばらく小春とキセリョ見物をしていたとき、
どこかのクラスの担任が此方へ歩いてくるのが見えた。

「コラアァァ!!!お前等!!教室前にたかるなと何度言ったらわかるんだ!さっさと自分たちのクラスへ戻らんか!!」

その声と共に渋々去って行く女子たち

「ちぇーもうちょっと見てたかったのに」

『もう十分見ただろ』

「まあね、これで今日の栄養補給は終わったしー」

『なんだそら』

そう言って教室に戻ろうとしたが、あたしはふと黄瀬を見た。
…が、その瞬間、なぜか彼と目が合ったのだ。
こちらはすぐに目を逸らしてしまったが。


しかしこのときのあたしは知らなかった。
彼が去って行ったあたしを見ていたことに。
 

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