小説

□好きなくせに馬鹿みたい
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大切にしたいと思う子って、男には誰でもいると思う。


たとえそれが、どんなに意地っ張りでつんけんしてるやつだとしても。















「おい、馬鹿兄貴聞いてるアルか」



「あーもうなんなの」



朝から口うるさい。どうせ学校に行けだのなんだの、また世話を焼きたいだけに決まってる。


少し淡いピンク色の髪を鏡の前で結って長い学ランを羽織った。



「だっせーヨ」



「お前には関係ないでしょ」



ああ、うるさい。
お前みたいなタイプの女が一番嫌い。





神楽は相変わらず仲の悪い兄、神威を尻目に支度を始めた。


食べ終わった食器類を水に付け、制服に着替えて髪を結び、最後にお決まりのびんぞこ眼鏡をかける。
鏡のなかの自分に向かって、にやりと笑った。



「お前のその眼鏡のほうがダサいけど」



「お前には関係ないアル!」



「俺と同じこと言ってんじゃん」




両親不在のこの家の鍵を管理するのは、一番早くに帰ってくる神楽。


さっさと出ろ、と神威を急かしたて、神楽はそのドアに鍵をかけた。



「今日はちゃんと帰ってこいヨ、ばかむい」



鍵をかけて、それをポケットに入れ神楽は改めて神威に向き直り眼鏡の奥の蒼い瞳を光らせた。



「なに、寂しいわけ?」


「んなわけねーだロ!」


「気分次第かな」


「ふん…」





少しだけ寂しそうな顔を見せた神楽は腕時計を見てくるりと方向転換した。



「馬鹿に構って学校に遅れるなんて洒落になんないアル」



神威はそれをあえて突っ込まなかった。








いってきます、の一言も無しかよ…。



遠くなっていく神楽の背中を見送りながら、神威は腕を組んでため息を吐いた。





まあ、ああいう態度をとる俺にも問題があるなんてこと分かってんだけど。
…だって、それなりの理由があるわけだし。


こうでもしてないと壊れちゃいそうだし。






「…ほんと、なんで俺アイツのこと好きなんだろ」







タイプでもないのに。
あんなうるさい女、しかも妹でまだガキ。
なのに、どうして…。







好きなくせに馬鹿みたい








いや、好きだから馬鹿みたいなことやってんのか。



今の関係を壊さないためにも。






 

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