小説

□誰か嘘だと言ってよ
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「銀ちゃん起きてヨ」



さっきから何度声をかけても銀ちゃんの目は固く閉ざされたまま



「おい、マダオ!もう昼になるアル」



阿呆みたいに口から涎をたらしていい歳したおっさんが



「いい加減起きろョ、鼻フックするアルよ」



暴言をはいても銀ちゃんの瞼はぴくりともしない


顔に落書きでもしてやろうかと銀ちゃんの顔を改めてまじまじと見てみる

意外に整った顔立ちに息をのんだ



「鼻高いアルな…」


「神楽ちゅわあん何か言った?」


「っっ!!」



銀ちゃんの気だるそうな目が半分開いていた

昨日酒をのんだらしく、いつもよりもご機嫌で、へらへらしている



「臭いっ!酒臭いアルっ!!呼吸すんなョ」


突然のことでびっくりした
どうにかして話を誤魔化す



「あはは、ひでぇなぁ、俺に死ねってか?」



「別にそーゆーことじゃな…」



目線を下におとす
するとふいに銀ちゃんの顔が近づいた
急いで顔を見上げる
自分の唇に違う温もりを感じた
口と口が触れ合うだなんて大したことないと思ってたのに


銀ちゃんがふふんと笑い
ニヤリとこちらを見る



「してやったりぃー」



ワナワナと震わせていた拳を
力いっぱい握り締めグーパンチで銀ちゃんを殴る



「糞馬鹿変態死ねエロ親父ィィィィ」



私は急いで家を出て行く
傘も持たずに猛ダッシュで
歌舞伎町を駆け抜ける


こんなに心臓がうるさいのも
顔が火照るのも
きっと走っているせいアル
断固そうアル
絶対絶対そうネ

あー
うるさい、うるさい、うるさーいっ


止まれ、止まれョこの高鳴り
これじゃまるで私が銀ちゃんを…


誰か嘘だと言ってよ。





 

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