お話し

□アムリタ
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(オリキャラ出てきます。注意!)



てんつく てんつく てんつく てんてん…
ちんとんしゃん
独特の音色が花街に響く。



花街



遊郭 狐御前。
ここは中国から渡来した妖狐・妲己の営む店。
衆合地獄の中でも粒ぞろいの美男・美女がつとめていることでも有名である。
一般の獄卒は一度踏み入れると甘い夢のその後長きにわたって、苦汁を飲む店でもある。
わかりやすく言えばぼったくりの店で酒の2〜3杯で給料の半分はもっていかれる。
当然、遊びに来た者は酒だけではなく色欲も満たしにくるのだ。
夢は必ず覚め、莫大な支払が残る。



夕方である。
2階の障子窓が開き、遊女のヒナギクが顔をのぞかせた。
湿った空気と曇った空を見やると視線の下の方に店のなじみの客の顔が見えた。
今日は同伴なのね。一緒にいる店主の甘えた顔を少し羨ましく見つつ、自分の客に話しかけた。

「雨が上がったようでありんすよ。」
彼女の背後には中肉中背の男がおり、店の浴衣から自前の着物にのろのろと着替えている。
男は返事をせず、あいまいにうなずいたが、ヒナギクは外を見ていたためその動きをみていない。
ヒナギクとて背後の客の顔をうかがうつもりはなかった。
最初の約束の二日は今この時で終わるのだ。

先ほど外に見た店主の連れの客の顔を思いだした。
仕事とはいえ、あれほど遊び心があり整った顔の男なら一緒にいても楽しいのだが。
男は2日前から、店にやってきた。
初めての客だったが、この店に入ったということは誰かの紹介だったのであろう。
ヒナギクはあまり細かいことを気にしない性分の女であったので、この客のことも
他の客のこともあまり興味はなかった。
しかし高価な酒を頼み、ゆるゆると過ごして丸々二日と半日も過ごしたのだ。
この月の稼ぎはかなり良いに違いない、とヒナギクは頬を緩ませた。

「ねえ…。」
ヒナギクが振り返ると男の姿はなかった。ただ紙幣の山が無造作にあるだけだった。



「それで名前は訊かなかったの?」
妲己は先ほど外で見かけた客の腕に手を絡ませながら尋ねた。
「はい…。とにかく無口なおひとでしたので、名前どころか話しかけても返事もいただけなかったんです。」
ヒナギクは男に微笑みを送り、答えた。
「もったいない。」
ため息をつくと、妲己は男とヒナギクの視線を遮るようにたたずまいを大きくなおした。
「ヒナギクちゃんにまた会いにくるんじゃない?」
妲己を見やり、同伴客がへらりと笑った。
「客の立場で言えば、しっかり払うってことは『また来る』ってことだからね。」
ふふ…と妲己と男は目を合わせ部屋を出て行った。

ヒナギクの胸にじわりと苛立ちのような思いが広がった。
遊女はそれを抱えながら、妲己と男が飲んだ酒を片づけはじめた。
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