お話し

□短編
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鬼灯さんの日常








目の前には積み重なる書類、書類。

並び、生気のない亡者の顔、顔。




忙しさに溺れるのは

自分に合っていると思う。

その中で自分なりに楽しみや面白みを

見つけることもできるのだから

退屈な事務仕事も悪くはない。




身体を動かしたくなれば

視察に行くこともできるし

背後で仕事をする大王を餌食にすることもできる。



しかしお盆も近づき

すでに地獄に服役している亡者たちは

現世に帰るその数日に

心を巡らせているようだ。



「すみませんが」

傍らに控えている獄卒に声をかけた。

「こちらの書類は全て受け付けられません。

不備がある部分に印をつけましたので

確認して訂正、再度提出するように。」

指し示したのは目の前にある半分ほどもある

山積みの書類。

ほとんどが亡者の不備で

こちらでは訂正不可なものだ。

残った書類は30分ほどですべて処理が終わる。




頭の中で今日の予定を確認する。

この後はTV局へ行って、

その後フェスティバルの出店に関しての会議。

他は…



ふいに桃の香りを思い出した。

地獄とは違う

花咲き乱れる桃源郷。

勤勉な日本人である従業員の桃太郎さんに

へらりと軽薄に笑う神獣。




「……そろそろ殴りに行かないと駄目ですね…」

言い訳は後から考えればいい。
















会いたい理由
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会いたいのに理由はいらない。
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