お話し

□短編
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現パロ(白澤さん目線のお話)
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白澤:おばさんの若い愛人だったところを鬼灯に見初められた。
鬼灯:おばさんの息子。あらゆる能力が高く、親の七光りなんて言わせないエリート。
おばさん:太った成金の女性。鬼灯の母親。



夜が白々とあけている。
まぶしくはないけど、そんな淡い光の変化に僕は目を覚ました。
隣にいた鬼灯はいなく、シーツはよれ、ぬけがらの布団がやや宙に浮いている。
なんだかさみしくて悲しくて僕はちょっと泣いてしまった。
だけどドサッと僕の頭の裏に何か袋が置かれて目を開けると
「バカですか?」
と鬼灯の冷たい顔が覗き込んでいた。
「バカってなんだよ!いないからびっくりしたじゃん!」
思いっきり文句を言ってやったけど、鬼灯は相変わらず表情を変えずに僕を見ていた。
「起きているとは思いませんでした。」
額にすうと汗が流れた。見れば来ているTシャツにもじんわり汗がにじんできている。
「走ってきたの?」
僕がきくと、こくりとうなずいて鬼灯が頭をなでてくれた。
「シャワーを浴びたら朝ごはんを作ってあげます。待てますか?」
「近くにいてもいい?」
僕はシャワーの扉の前で座って待つことにした。
いろんな音がして、鬼灯が丁寧に洗っているのがわかって僕はなんだかほっとした。
鬼灯は忙しいから、結構いろんなことが手抜きだ。
「あ・・・」
この朝の時間、僕はほとんど眠っている。
早く起きて、走って、ゆったりシャワーを浴びる。
いつも忙しくしてるあいつの唯一自分自身に向き合える時間なんじゃないだろうか?
僕はその時間に侵入してしまった。
大好きな鬼灯の貴重な時間に…そう思ったらまた悲しくて涙がでて今度は声を上げて泣いてしまった。
がちゃと音がして鬼灯が濡れた頭を拭き拭き現れた。
ちょっとびっくりしてまた僕はなきやんだ。
鬼灯もちょっと目が大きくなっているから驚いているのかな。
「今度はなんです?」
僕は「ごめんなさい」と泣きじゃくりながら思ったことを言った。
はあーと鬼灯がため息をつくと僕をしっかり抱きしめた。
「そんなことで腹を立てるなら一緒に暮らしませんよ。」
軽くしか拭いてない鬼灯の体からじわと湯気が立ち上っている。
「あなたをあのひとが気に入ってた理由がわかりました。」
「おばさん?」
「まあ、そうなのですが。」
僕は元々鬼灯の母親の愛人だった。
たまたま出会った鬼灯が自分で借りているアパートに呼んでくれて今一緒にいる。
「あなたは愛人で子供だったんですね。」
私は幼い頃、甘えない子供だったそうですから。鬼灯は言った。
「すぐに不安になるのはいけませんね。もっと信じてください。」
僕は鬼灯の抱きしめる手の確かさを感じながらうなずいた。
ベッドではさっき鬼灯が置いたビニール袋がゆっくり形を変えて口を開いた。
中から林檎がころげ落ち、バナナのヘタが微かに見えた。





情けない僕
―――
そんな白澤さんが好きですよ。
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