小説ウィスタル

□始まりの知らせ
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 この部屋はまさしく王家の人間にふさわしいものだった。まず目につくのは大理石の冷たい壁にかけられた暖かい太陽をイメージした絵画と、その絵の両側にある大きくとられたガラス窓。床には複雑な網目模様の絨毯がしかれ、天蓋付きの大人が三人は寝られるであろうベッド。部屋の隅に置かれた大きな衣装棚。クッションのしかれた椅子にこれまた大きな机。その上に広がっている紙とペンを横目で見て、後で片付けておこうと思った。
「ねぇロスト。3562−3462って100よね」
 いきなり話をふられ、慌てて視線をセレナに戻した。髪を梳く手を止めて、こちらを見ていた。
「え、あぁ、えーっと、はい、そうです」
「ありがと」
そう短く言って、また髪を梳きはじめた。
「何なんですか?」
「何が?」
「その100って数字がどうかしたんですか?」
 セレナはもう一度手を止めた。そして、今度は体ごとこちらに向け、口を開いた。
「今日、封印が解かれるのよ。もしかしたらもう解かれてるかもしれない」
「封印?」
セレナは無言で頷いた。
「そう。闇の王子様がお目覚めよ。大臣達が話してるのもきっとそのことね。今日はシラ・ストラートの所に行こうと思ってるんだけど、ロスト、ついてきてね」
 最後はにこっと笑い、手に持った櫛を机の上に放り投げた。かたんと音をたてて見事着地。
「よし、じゃ行きましょ」
 言ってセレナはロストの横を駆け抜けた。
「了解。じゃあ馬の用意をしましょう。それとも飛竜にしますか?」
「そうねー」
そう言って、開けた扉の廊下側で立ち止まった。
「歩く」
そのままどこかへ去っていった。
 歩くって、そのドレスで?
 後に残されたロストは、そう思いながら廊下に出て、扉を閉めた。そのとき、どこからともなく声が聞こえた。いや、聞こえたような気がした。どこかの開いた窓から風にのってやってきたようなその声はこう言った。

 お姫様をちゃんと守ってあげるんだよ。
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