妖語
□語る者
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吹雪の山を、重い荷を背負って歩く男たちがいた。
「皆!この山を越えれば村だ!頑張ってくれ!」
先頭を行く者が後方に叫ぶが、その声もすぐ風に飲み込まれる。それに顔をしかめた男に、すぐ隣にいた別の男が嘲笑を投げる。
「なんてこったい。これじゃあ、全員生きて帰れるか」
「そんなことを言うな五助!進むぞ!」
「へいへい」
全身に雪と風が叩きつけられる。視界など無いに等しかった。それでも、村に帰りたいという思いだけで、男たちは進んでいた。その荷は、別の村で手に入れた大事な食糧だった。これを村に届けなければならない。
「女子どもを、これ以上飢えさせるわけにはいかない」
男は前方を見据えた。
その時であった。
「何だいありゃあ。灯りかい?」
隣の男が頓狂な声を上げた。
そう、吹雪の中、少しばかり歩いたほどの距離に、まばゆい光が見えたのだ。途端に、後方にいた者が歓喜に沸く。
「灯りだ。人か?」
「村からの迎えかもしれねぇ」
「ありがてぇ」
「おーい!こっちだー!」
そして、男は見た。その光の中に、人影があるのを。
だが、それは・・・
本能が、警鐘を鳴らした。
「だめだ!逃げろ!」
男が叫ぶが早いか、その体から血飛沫が上がるが早いか。
胴が二つに割れた男の体が宙を舞った。
刹那。
その戦慄は、男たちを焼いた。
「待てよ!何だよこれ!」
「嫌だぁぁ!死にたくねぇよぉ!」
「誰か!あぁぁぁ!来るなぁ!」
雪。
そして、赤。
静かなる怒りと悲しみだけが、残った。