妖語
□語る者
4ページ/4ページ
子どもたちは見守った。『最初で最後』に酔いしれて。
「この書の初めにこうある」
語り部は、ぎいっと音の立ちそうな重い表紙を開いた。更なる緊張。少女が少しだけ目を伏せた。
語り部はそれを見た。その腕に抱かれた赤子を見た。
「姫子、赤子は良くない」
語り部の言葉に、子どもたちは一斉に少女を見た。語り部と共に来た、物静かな少女。ほとんどの子どもが、その少女と話をしたことがない。おそらく、名前を知るのも初めてだ。
「変わらない」
それは少女の言葉であった。『語り屋』の戸口で鳴る始まりの鈴の音と同じような音がした。
「良いの。同じよ。続けて」
淡々とした、色の無い言葉。子どもたちの沈黙。語り部の溜息。
「分かった。続けよう」
秘密の空間。
厳かなる時間。
「この書は、『予言の書』と呼ばれるものじゃ。これから先に起こることが全て記されている。勿論、これまでに起こったことも、全て。さて、それはこう始まる」
厳かなる一節。
「我は予言する。最後の戦いを」
赤子の泣き声が、響き渡る。
あやかしがたりをはじめましょう。