Long

□Again
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「英二!」


慌ただしく病室に駆け込むシンに看護師が軽く一瞥する

既にある程度の処置はしてあるらしく一人の看護師が機械を弄るだけでドクターの影も無かった

目の前に横たわる彼は弱弱しいながらも規則正しく胸を上下させていた

覚悟はしていたもののとりあえずは安堵のため息をつく


「驚かすなよ・・・」


ベッドの脇にある椅子に浅く腰掛けると寝ている英二を覗き込むように見る

多少、眉根が寄せられているもののきっと大丈夫なのだろう


「ったく、なんで俺がこんな心配しなきゃなんねーんだよ・・・」


何本もの管が繋がれた英二の腕を触ると暖かさが伝わりホッとした

己の指を英二の指と絡ませると意識の無いはずの彼の指が一瞬ピクリと動いた

唯の条件反射の一種なのかもしれないがそれでも反応が返るということに希望が沸く


「行くなよ・・・英二。まだ行くな」


込められた思いは誰にも気づかれてはいない

シンはただ、この友人の良き友として接してきていた


「英二・・・一緒に映画に行く約束しただろう?それから海にも行こうって・・・約束しただろう?」


耳元に囁くように声をかけるが人工呼吸器から漏れる音だけが聞こえてくる

あの優しげな声を聴くことができず胸の奥が詰まる


「・・・なぁ、暁もバディも伊部もマックスもリンクスの連中だって心配してるんだぜ。英二」


囁く声がわずかに震えているのが自分でもわかる

それでも語りかけていないと居なくなってしまいそうで、その恐怖を知ることが怖いのだ


「英二・・・。英二・・・行くんじゃねーよ」


シンが呟くと同時に英二の目尻から涙が一滴零れ落ちた・・・



真っ白な世界

そこにはただ無垢なものしか存在しない

何にも汚されることのない

その世界から

ひとしずくの涙が零れた



一転、暗闇の中

何がどうなってそこに居るのか

シンが我に返ったとき

天を仰ぎ見ると無数の星が輝き一筋の光が流れた





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2012.09.26 RIU.
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