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「最悪だ…」



がんがんとうるさいくらいに頭に鳴り響く頭痛。
全然眠れなかった。
そりゃあ、あっちは大人でいろいろと経験豊富だろうけど、俺はこう見えて実は初めてだったりする。
彼女出来たことねえし。
告白されたことはあるけど、なんかみんな違ったっていうかなんつうか。
今は男子校だし学校での出会いなんかない。
まあ男子校であるわけだし男同士も珍しくはない。
でも俺には無縁。
ってかそういう感情がよく分からない。



「高尾っち!はよっス」


「おはよ。あれ、今日は黄瀬なんだな?珍しい」


「寝坊したんスよー」


集合時間早いんスよね、なんて言いながら苦笑いの黄瀬。
青峰と黒子と黄瀬は家が近いこともあって、3人で学校に来てるんだっけ。
前は青峰が寝坊して俺と登校したんだよな。
たいがい、寝坊したやつは俺と学校に行く。



「今日は1限目から保健があるんスよねー」


「え、保健って…」


「ほら、高尾っちが昨日見に行った先生の授業っスよ」



どんだけタイミングが悪いんだかついてないんだか。
朝っぱらから悩まされてんのに、さらにあいつの顔見るなんて。
なんで俺がこんなに悩まなきゃダメなんだよ!
でも、たった一瞬だけしか触れてない唇が、もう感触をしっかり覚えてしまっていたりする。
ああもう、ごちゃごちゃしてばっかりじゃん。



「高尾っち、さてはあの新任に恋でもしたんスか?」


「はあっ!?」


「いやだって、顔真っ赤」


「え?」



顔を触った自分の手が熱くて、鏡を見なくてもどんな顔してるのかが分かった。
黄瀬は何か分かったようにくすっと笑った。
なんだよ、その顔。






「新しく保健担当になった緑間真太郎だ。よろしく」



白衣がむかつくほど似合うそいつは、今日も昨日と変わらずだった。
教室入ってきた時も、目が合ったのにそらされた。
なんで俺がさけられる?
俺やられた側なのに。
そう思っていると、頭にこつん、と何かが当たった。



「紙?」



綺麗に四つ折りにされている紙を開けた。
それは黄瀬からだった。

ーーーーーーーーー
好きなんスよね?
緑間っちのこと。
ーーーーーーーーー

おいおい、緑間っちって。
好き、じゃないだろ。
だって好きになる接点なんかこれっぽっちもない。
ただキスされたくらいで次の日に、はい好きになりました、なんてそんなの他はともかく俺でしたらありえない。
違う、と書いて送ると、黄瀬はまた新しい紙を俺に投げてきた。

ーーーーーーーーー
嘘は良くないっスよ!
ーーーーーーーーー



「…は?いやだから、嘘じゃねえし…」


「何をしている」



頭上から降ってきた言葉にびっくりして顔を上げると、どうやらなんともご立腹な新任がいた。
俺は見つからないように持っていた紙をぐしゃっと手の中で丸めて、そっとポケットの中に押し込んだ。
苦笑いで緑間を見ると、ぺしっと教科書で頭を叩かれた。



「授業に集中しないのは居残りたいからか?」


「いやあ、ははは…」



バカ黄瀬ええっ…。
ちらっと黄瀬を見ると、なんともいう素晴らしいスマイルでこちらを見ていた。
いやいやいや、笑っても何もないからな。
しかもなんで、黄瀬は怒られないんだか。






「さて、何をしていた」


「えーと、現実逃避?」



放課後の保健室。
律儀にお茶まで出してくれたけど、今は言い訳を考えるのにいっぱいいっぱいだ。
だいたい、俺じゃなくて黄瀬のせいだろ!
ポケットの中にある、ぐじゃぐじゃな紙を思い出してため息をつく
あの紙見せて、はい先生のことを好きか嫌いか書いていました。なんて言えるわけがない。



「悪かったな」


「え、何が?」


「俺のせいだろう?昨日のことでも気にしているのだと思ったのだよ」



だからわざわざ教室じゃなくて保健室にしたのか。
返事をするにも出来なくて、苦笑いがこぼれる。
ってかなんか今その話題に触れられたら困る。
すごい気まずいし。



「何が好きだ?」


「好き?」


「なんでもいい。まだお礼をしていなかったからな」


「あ、いや、別に」


「俺がこのままじゃ嫌なだけなのだよ」



なんか、見た目通りというか真面目だな。
かといって、いきなり好きなものなんて思い浮かばないし、特にない。
それに物とかじゃなくて、どっちかというと場所の方が良いな。
遊園地とか水族館とか。



「なら水族館で良いか?」


「え!?俺声出てた?」


「ばっちりな」



だんだんと体と顔に熱がこもるのが分かる。
めっちゃはずい…。
ってかまじで俺と緑間の2人で水族館行くの?
いやいや、それは。
うん、ないよな、ない。



「今週の休日なら仕事なくて大丈夫だから、空けておくのだよ」


「ちょ、み、緑間!」


「なんだもう1回呼んでみろ。俺には呼び捨てに聞こえたが聞き間違いかもしれんからな」


「…緑間、先生」


「なんだ」


「2人?」


「そうだが」



これって世にいう、もしかしなくともデートってやつとして受け取って大丈夫なのか。
っておいおいおい。
俺たち別に付き合ってないしデートも何もないじゃん。
ダメだ、ちゃんと自覚してるけど心臓の鼓動が止まってくれない。



「…黄瀬のせいで余計に意識しちゃうじゃん」


「何か言ったか?」


「何もない!」



to be next…


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