物語
□第十四話「怒り」
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そしてその手を、掲げるように上へ上げると、光の球が現れた。
「…光の球……魂か……?」
魂が現れたのを確認すると、それを宙に浮かせたまま、仙人の両手が、今度は周泰の胸に向けられた。
悪しき魂が取り除かれた同時に、宙に浮いている魂を入れるつもりらしい。
「………。」
ここからは運次第……。
そう一瞬思った女カだったが、しかしそんな事を思ってしまえば、魂の入れ替えが失敗した原因の一つとなってしまうと、すぐに思いを変えた。
自分の力を、今は信じなければならない……。
「……っ。」
周泰の肉体から悪しき魂を取ろうと、三人の仙人は、かざした両手に力を込めた。
『………。』
それを見つめる孫権達……。
「……!」
「……え…?」
その時、太公望は目を見開いた。
「……!?」
「…!?な、何……!?」
魂を抜く前に、なんと周泰が目覚めてしまったのだ。
起きてすぐ目にしたのは、光の玉……魂と、
自分を囲って、両手を自分に向けてかざしている三人の仙人、
そして、その光景を見ている外界の人間達………。
「しゅ、しゅうた……!!」
「っ!!!」
パキィィィンッ!
「「「っ!!」」」
『うわっ!!』
「…!?」
周泰がその目の前の光景に驚愕したと同時に、黒い光が全てを弾いた。
黒い光に弾かれ、伏犠は壁に背中をぶつけ、女カは空中へ飛ばされ、太公望は真上へ飛ばされ、
そして孫権達も、弾かれて尻餅ついたり、両足に重心を入れ、堪えたり、伏犠と同じく壁にぶつかってしまった。
姜維は吹き飛ばされ、崖から落ちそうになった所を、その崖の端を掴んだ。
「っ………周泰…!?」
「…!?………!!!」
何故か周泰本人も、黒い光に戸惑っていた様子を見せていた。
しかし、孫権の姿を見た途端、その戸惑いの目は、憎悪の目と変わってしまった。
「……周泰…!!」
「………っ!!」
突然、周泰は剣を出すと、それを投げた。
孫権目掛けて投げたその剣は、孫権の頭上に刺さった。
それは孫権の頭を切るのではと思わせるくらいギリギリの位置である。
「―――――――っ!!!?(汗」
ビビッた孫権は、その場で固まってしまった。
「……孫権……っ、」
「――――――――っ。」←固まってて聞こえてない。
周泰が手を開くと、刀が現れた。
その刀を見た途端、固まっていた孫権は、目を丸くし、その刀の名を呟いた。
「………!?」
「……。」
「…………宵……?!」
「……この刀を……!?」
孫権が刀の名を知っているのに驚いた周泰は、顔を顰めた。
「………何故知っている……。」
「……だって………その宵を…私の先祖が、お守りとして持っていたから………。」
「何……!?」
その顔は、怒りの顔だった。
周泰は孫権に近寄りながら喋る。
「………俺を裏切った奴が……この刀を……!!」
「ぐ………それは……っ!」
「違うの周泰!権兄さまは…貴方を捨てた訳じゃ……!」
兄を助けようと、尚香が周泰に言い聞かせようとすると、周泰は彼女を睨んだ。
「………黙ってろ…!!」
「……黙れないわよ…貴方の誤解が解けるまで!!」
「……誤解…!?」
誤解という言葉に、周泰は一瞬固まったが、しかし、再び睨んだ。
「………何が誤解だ……。」
「蒋欽が両親を殺した事とか……権兄さまが周泰を捨てる気で捨てたって訳じゃない……。だから………。」
「……蒋欽は……俺の親を殺したと、自ら話した……。孫権も……、見捨てた……。」
「………。」
「相手が俺の主で、そして俺を迎え入れて下さった者なので運が良かったが……、だが、もしそのような者でなければ、どうしてくれた………!」
「……お前は……された……。魂を入れ替えられたんだよ………。」
「……それが何だ……。」
「!?」
「……遠呂智様は……入れ替えられる前の魂に宿っている、邪魔なものを取り出そうとしている……!」
「…取り出そうと…!?だから、そうして、戦を………!」
「…………。」
「……っ。」
絶対信じられないという目をさせている周泰に、孫権は何も言えなくなってしまった。
…これほどまでに、自分ら外の人間達に対する恨みが強いというのか………。
「……周泰……。」
「……遠呂智様の邪魔をする者も、差別する者も許さない。……だから孫権……蒋欽……、」
「…!」