物語

□第十四話「怒り」
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「………はぁー…お師匠様、早く元に戻ってくれねえかなー……。」

月英の家で、動物好きの月英に匿われている悟空は、石化している三蔵法師の頬に手を触れ、そう呟いた。

しかし今は月英が、仙人に言われて桃園の崖にいるので、そこに凌統と小喬がいた。

「その三蔵法師様は、どうして石にされたんだいお猿さん。」

ふと、凌統がそう聞くと、「復讐らしい。」と悟空は答えた。

「ふくしゅーって、やっぱり蛇さん、伏犠おじいちゃん(?)たちの言ってた、永久(とこしえ)なるバツを受け続けてたから、むかついたのかなぁ?」
「さて…ね、でも、仙人に対する恨みとか持っても持って無くても、どちらにしろ遠呂智達は、この人間の世界を襲う。そして、復讐って言ってるところから、仙界にまで手を出すかもしれないねぇ。」

凌統が顎に手を当てながらそう言うと、悟空は三蔵法師の頬の傍で、手をギュッと握った。

「……俺の他の仲間は今人間界にいねぇ……お師匠様と共に旅して、そして今人間界に降りてる妖怪は、俺一匹……。」
「…さごじょーとちょはっかいっていうカッパさんとブタさん?」
「…一緒に人間界に降りたお師匠様は、こうして石にされた……。俺の仲間がいない間、お師匠様を助けなけりゃあいけないのは、俺ただ一匹、だな……。」
「お猿さん…。」

三蔵法師を救わなければいけないという責任感を感じてか、悟空はずっと三蔵法師を見つめている。

師匠が石化してしまい、昔のように強者を求めている場合ではないと感じ、悟空は歯を喰いしばった。

「…お猿さん、お猿さん一人じゃないよ?」
「!」

その時、小喬は悟空の腕を掴み、ブンブン振りながら言った。

「だぁって三蔵法師さんが石になっちゃってるこの姿を見たからには、助けないって言う人が変だもん!」
「…ウキ?」
「ああ、どうせ遠呂智を止めなきゃいけないしな。」
「……くぅ〜〜〜!!改めて人間って、ほんっと良い生き物だって感じるぅ〜〜〜〜!!!(泣」

ギュ〜ッと小喬の両手を握る悟空は、感激の涙を流しながら、何度も頷いた。

「……。」

すると小喬は凌統に、目で話しかけた。

(……やっぱりお猿さんって、天竺目指していたごくーと同一人物だね。ほんとはこんなに優しいお猿さんみたい。)
(確かに…。でも聞けば、平清盛の為に戦っていたって言ってたもんな。それに、大蛇を倒す時だって、師匠さんに言われたとはいえ、確か………。)
(うん。とにかく、早くさんぞーほうしサマを助けなきゃ。)
(そうだね。)

目で語り合った小喬と凌統は、笑い合い、小喬は悟空の頭を撫でた。

*

「……やはり私は、これでいいのかって思うんだ……。」

その頃、孫権は自分の家で、蒋欽や尚香、呂蒙に自分の思っていた事を口に出した。

その思いを耳にし、尚香は「え、何が?」と聞き返した。

「うん…だっていくら遠呂智から生贄軍とか兄貴、父さん、それと夏候惇達を助け出す為とはいえ……周泰をあのように……。」
「………。」
「……あいつら……皆誤解しているんだ……。甘寧は呂蒙を、我々外の人間に惑わされた人として、お前を助けたいと言っていたし……。周泰をあのような連れ方をしてしまった事で、あいつらは周泰が捕まったと誤解……。そして、酷く差別された過去を持っていて、我々外の人間達全てが、自分らと差別するって思い、外界の人間全てを憎んで……。」
「孫権……。」
「私の場合、周泰を見捨ててしまったから、彼に悪人と恨まれても仕方が無いが……でも、あのような扱いをすれば、私だけでなく、他の皆にまで、周泰達に恨まれて……!!」
「もう既に恨まれていますよ我々。」
「!」

周泰を見捨てた責任感を再び感じ、頭を抱えようと動かした孫権の手を、蒋欽は阻止するように握り、言った。

「俺の方が、貴方以上に彼に恨まれていますから……。」
「う……。」
「でも…俺にはそのような記憶は無い……。…だから、尚更周泰に恨まれて………。」
「そうよ、とても辛いと思っているのは、権兄さまだけじゃないのよ?」
「尚香……。」

蒋欽の後ろで、尚香も孫権を励まそうと近付いた。

「ほんとは私もそう、策兄さまや父さまとか……それに、貂蝉ちゃん、最近姿を見せないから、皆何処にいるか心配なの……。この前の夏候惇さんやホウ統さん、曹丕さん、そして甘寧みたく、ほんとは無事だと分かった時、それじゃあ、皆何処にいるのか気になって……。確かに研究所なのは分かっているけどね?でも…色々な所で放火したり、人を斬ったりして……。」
「……尚香…お前……。」

ギュッと拳を握る尚香を、劉備は小さく呼んだ。

夫の声が聞こえたようだが、尚香は言葉を続けた。

「……もう……生贄軍も……夏候惇さん達も……いつの間にか、犯罪者になってしまったのよ……!?大蛇に呑まれた人達まで罪を犯しているって事は……もしかしたら、策兄さまや父さままでって思っていると………!!」

あまりの辛さに、尚香は涙をボロボロと零した。

妹のその泣き顔を見、孫権は押し黙った。

「……権兄さま……一人の人を見捨てただけで、悪人って自分を責めないで……!?ほんとの悪人になってしまったの……生贄軍だから……それでも私達……彼らを助けないといけないの……いけないのに……それ以上、責めたら……!!」
「………。」
「……お願い権兄さま……策兄さまも父さまもいないのに……権兄さままで、自分を悪人って責めないで……お願い!!」
「………孫尚香さん……。」

泣き崩れた尚香の姿を、男達はただ見ているだけしか出来なかった………。
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