物語

□第十四話「怒り」
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「………………。」
「…あ、周泰!」

桃園の崖にて、柱に縛り付けられた周泰が目を覚ました。

仙人に桃園の崖に残るよう言われたので、此処に居る月英は、それに気付き、彼に近付いた。

「…………。」
「……。」

だがその時、月英は周泰の顔を見て、その歩みを止めてしまった。



周泰の絶望したような顔を………。



「……周泰…って言ったよね……何もしないわよ!?」
「…………。」
「…でも……ゴメンなさい……。連れ方が乱暴過ぎた……これじゃあ攫ったのと同じですよね………。」
「………だったら………、」

歯を喰いしばり、周泰は言う。

「………この縄を解け……!!」
「…………。」
「………出来ない訳ではない筈………!!」

ギリッ…と月英を睨む周泰。

「……確かにそれを切れば、貴方は自由になれる……。」
「………。」
「……でも出来ない……。」
「っ!!」

出来ないという言葉に、周泰は睨んだ。

しかしそれに動じず、月英は続ける。

「だって、もしその縄を切ってしまえば、自由になった貴方は、また人を斬る……。また色んな所を燃やす……。既にそのような罪を犯してしまっている貴方に、これ以上罪を重ねさせたくないの。」
「っ……遠呂智様が、外の世界は存在してはいけないと仰っていた………。」
「……周泰……、」
「……!」
「………遠呂智や妲己の事………、あの二人の悪事が、全て正しいと信じているのね………。」

切なげな声で言う月英に、周泰は、「…………当然だ…………。」と低い声で言った。

「…………。」

すると月英は、周泰の隣に腰掛けた。

「……!?」
「……ねぇ周泰……、貴方の仲間の………孔明様と馬超、今まで接してきて、とても元気そうでしたか?」
「……は?」

何故その二人の事を…!?という疑問が、周泰の顔に出た。

それに気付いた月英は答えた。

「馬超はね、私や小喬ちゃんが匿って………いや、一緒に住んでた事があったの。そして……孔明様はね……私の恋人であった………。」
「………。」
「私もホントはよく分からない。皆から言われた所によると、私の体の中に、代わりの魂が宿っているから、それが宿る前の記憶が無いって言ってるようだけど……、でも、孔明様の事を考えたら、何故か気になって……孔明様の名を聞いたら、必ずその名を持つ顔が浮かび上がる……まだ会った事も無いのに……。馬超も………。」

月英の話を、周泰は黙って聞いている。

「…でも姜維と猛獲、そして祝融っていう、孔明様をよく知る人達、それと孔明様の兄、諸葛瑾さんから全部聞いたの、孔明様の過去とかを……。」
「……諸葛亮はこの世界の人間によって、部屋に閉じ込められていたと聞いた……。」
「そうだけど、でも理由があるみたい。」
「………理由………?」
「姜維によると、孔明様の父は、自分の息子のその天才過ぎる頭脳を利用して、いつか誰かに狙われるんじゃないかって恐れていたらしいの。ほんとはその人も、孔明様を外に出したかったようだけど……、でも家にいない間に、攫われるかもしれないとも恐れていたみたい。孔明様を閉じ込めた事、彼は死ぬまで後悔していたらしくて……。」
「………。」
「事実、孔明様は『才』の持ち主として、科学者達に捕まったって……。孔明様が中学生の頃に、まだ小学4〜5年生だった姜維と出会って、彼に師匠と呼ばれて気に入られた孔明様が、いつしか信頼してくれたその姜維に、自分の過去を全部話してくれたらしいから、姜維も孔明様の過去を知っていたみたい。」
「……そうか……。」
「……!……周泰、もし仲間と会えたら、伝えて欲しいの。」
「……?」

周泰の先程の返事を聞き、何も嘘と思わずに話を聞いてくれたと気付いた月英は、おそらく周泰が諸葛亮達の元へ戻す事を許されないだろうと思いつつも、伝えて欲しいことがあり、それを言った。

「……私、貴方達を助けたい。」
「………。」
「私だけじゃない、孫権も蒋欽も、劉備様も尚香ちゃんも小喬も、皆、全員、貴方達を助け出したいと思っている。そして……遠呂智や妲己が行っている事は間違っていると、伝えて欲しいの。」
「……何……?」
「孫権さんだって、貴方を捨てた事を凄く反省している。恨まれて当然だって……。蒋欽も、貴方の両親が何で死んだか聞いたから、その本当の真相を話したいって…。」
「………。」

一番恨んでいる者達の名が出て、周泰の顔が険しくなった。

「誤解で人に恨まれるって、とても辛いのよ周泰。蒋欽は、さっき言ったように、貴方の両親を殺したのは自分じゃないって言うから、調べたのに……貴方は………。」
「………恨む俺が悪いとでも言いたいのか………?」
「そうじゃない!そうじゃないけど………。」

月英は、その後何が言いたいか、分からなくなってしまった。

何を言えばいいか迷ってしまっている月英を、周泰は黙りながらも、見つめていた。
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