二年前(四月〜七月)

□五月〜2〜
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〜りとぅん ばい 光〜


 ちゃらららっらっらっらッ。野球バカクッキングの時間です。
 さて、本日の料理は…ッ。
「カレーです」
「カレーだな」
 シンゴと二人で並んでいる材料たちを眺める。
「さぁ、シンゴさん、まずはじめにどうしましょう?」
「いやいや、ここは光先生におまかせしますよ」
「シンゴくん。いつまでも先生に頼ってばかりではいかんのですよ。ささ、やっちゃってください」
「…つーか光、料理したことある?」
 あるわけがない。夕飯作ってる時間帯に家にいるわけないんだから。
「ないよ。シンゴは?」
「…ねぇよ」
 二人で再び材料を眺める。
 …………あれ? この展開まずいんじゃね?
「いやでもほら、カレーでしょ? 材料切って鍋に放り込んで煮るだけだし…」
「できっかな?」
「できるッ!」
 …たぶん。
「んじゃ、切るぞ。とりあえずどれからいく?」
「どれでも一緒でしょッ。うんッ。皮剥く奴からいこう」
「っしゃッ」
 そしてとんでもクッキングの時間が始まった。
「光、イモ剥くとき指気をつけろよ」
「う、うん」
 うわ…なんか緊張してきた。
「シンゴ、人参も皮剥くんだよ?」
「え? まじ? これ皮あんの? 剥いても剥かなくてもかわんなくね?」
 …確かに。
「光、玉ねぎどうやって切んの?」
「えっと…皮…は剥いたから、ヘタおとして半分にして…そっから適当でッ」
「アイサー」
 それにしても、材料結構色々あるな。
「りんご…て、カレーにそんなんいれんの?」
「さ、さぁ…入ってるの見たことないけど。私はむしろこっちの葉っぱのほうが気になるんだけど…」
「ローリエ…? ってなんだ?」
「わかんない…。けど、一応カレーに入れるつもりで和が買ってるんだから、食べる物だよね?」
「…いや…これ食べんのはねぇだろ…」
 うーん…。謎。
「あとは肉か」
「ああ、さすが和だね。結構肉多めに買ってくれてるよ」
 いったい何をどれだけ入れればいいんだろ?
「光、袋に入ってた材料全部切れたけど、これ全部入れんの?」
 いや、私に訊かれても。
「…入れるんじゃない?」
「入れっか…」
 これは闇鍋の予感。
 そして二人で鍋をかきまぜながら煮ること数十分。
「鍋に放り込んで煮るだけ…だよな?」
「うーん…なんか色々間違えたかな…。せっかくだから借りられる調味料色々放り込んでみる?」
「だな。それでごまかせっだろ」




「…なるほど」
 はぁぁ…。と感嘆のため息をつく和さん。
 そんなに素晴らしい出来だったかな。
「まぁ…予想はしてたけど」
 いやだなぁ、姉貴までそんなに褒めないでよ。
「…お前ら」
 和の低い声が飛んだ。
「はい…」
「…なんか先に言うことがあるんじゃないのか?」
 シンゴと顔を見合わせて、それから和と姉貴のほうへ向きなおって勢いよく二人で頭を下げた。
「ごめんなさいッ」
 二人で叫ぶと、和は苦く笑いながら言った。
「…にしても、豪快にやってくれたよなぁ。高校生にもなってこれは逆に珍しいだろ」
 同じような顔で姉貴がルーの箱を手に取る。
「まぁ、普通カレーの箱の裏に作り方書いてあるから、それ見てやるよな」
 え? そうなの?
「え? そうなの?」
 ちょ、シンゴ同じこと思ってる。
「そうなの? ってシンゴ、気づいてなかったのか?」
 さすがに笑い出す和。姉貴が続けた。
「二人とも、中学ん時は調理実習、絶対ふざけてただろ? 後ろのほうで遊んでたとか」
 そのとーり。
「白ご飯は施設側で用意してくれてるんだよね?」
「ああ。俺、取りに行ってくる」
「俺も」
 男二人が走り去った後、姉貴と二人で話す。
「…調理実習かぁ…。姉貴は球技と調理実習は絶対見学だったもんね」
「ああ、ピアノやってる人間にとって、指は命の次に大事だったからな。だからってそこまで大袈裟に大事にすんの馬鹿馬鹿しいって私は思ってたけど」
「馬鹿馬鹿しくなんかないよ」
「?」
「指、大事にすんの、馬鹿馬鹿しいことなんかじゃないよッ。…まぁ、私が言えたことじゃないけど」
「光…」
 プロにまでなった姉貴が突然ピアノをやめた理由は、誰も知らない。
 私にさえ、姉貴は決して話さなかったから。
「また弾けるようになるといいね」
 笑顔で言うと、姉貴も全く同じ顔で微笑んでくれた。
「………そうだね。そうなるといいね」
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