おまけページのいろいろ
□女々しくて
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太陽が燦々と照りつけるグラウンド。
そこに集まった桐青野球部員たちの前で、淡々と話す主将。
「…というわけで、監督が退院するまでの一ヵ月間、代理で監督を務めてくださるイゼさんをみんなに紹介する」
そこまで和己が話した瞬間、三年が集まっているあたりからいくつか手が上がる。
仕方なくあててやる和己。
「…はい、マサヤン」
「主将、監督ってなんで入院してンだっけ?」
「いや…実は俺もよくわかってないんだけど…。まぁ、怪我らしいぞ?」
再び勢いよく上がる手。
「…はい、山ちゃん」
「監督の不在って一ヶ月でしょ? 代理とかいらないンじゃない?」
「ああ、それ俺も言った。けど、せっかく来てくれるンだからって監督が…」
手も上げずに話し出す慎吾。
「つまり監督の知り合いを紹介してくれたってこと? つーかイゼさんって日本人? 何者? 男? 女?」
「シンゴ…手あげてから喋れ。とにかく今から監督本人に挨拶していただくから。お前らも、ガヤガヤ喋んなッ」
和己の軽い怒鳴り声が響いて再び静かになったところで、すっと一本手が上がる。
まだ何かあるのか…と胸中つぶやきながら和己が仕方なくあててやる。
「…はい、準太」
「すんません和サン、今って何月でしたっけ?」
「訊くなッ! それ訊いたら話が終わンだろーがッ」
その瞬間、奴はやってきた。
「おいコラ、いつまで待たせンだ?」
真っ白な顔に歌舞伎メイク。一体何歳なのか、日本人なのか、そもそも男なのか女なのかさえもわからない声で、イゼ監督は続けた。
「てめーらを野球人形にしてやろーかぁぁぁぁッ」
「…………」
静まり返る野郎ども。
「いーかてめーらッ。このオレが来たからにはてめーら全員一からしごき直してやっから覚悟しやがれッ!」
さっきまでガヤガヤ喋っていた連中が全員固まってしまって誰も何も言えない。
見かねた和己が口を開いた。
「ええっと…監督?」
「なんだてめーは?」
「…主将の…河合です。あの、イゼ監督? ですよね?」
「なんだてめーボソボソ喋りやがってッ。言いたいことがあンならはっきり言いやがれッ」
「すんませんッ! 監督ッ。挨拶終わったら解散してもいいっスか? 練習始めたいンで」
直訳すると、もう勘弁してください。となる。
「チッ。しょーがねーな。河合ッ」
「…はい」
「次の試合いつだ?」
なんで監督代理なのに次の試合日すらわからないのか。しかし、それを突っ込む勇気は誰にもない。
「はいッ。明日、美丞と練習試合入ってます」
「よし。てめーらッ! 負けたら一人ずつ仕置き部屋でケツバットだからなッ。せーぜー頑張れッ」
長い一ヶ月が幕を開けた。