にぎやかな校舎兼一夜限りのパーティ会場に背を向けてエイドリアンは外へ出た。らしくない足取りで校庭まで歩きそのままベンチに座り込む。 夜も更け、街の明かりはとうに消え星がはっきりと見えるというのに、にぎやかな背にした校舎は照明が灯されはしゃぐ学生たちの声が聞こえる。 校舎兼一夜限りのパーティ会場だ。 あまり騒がしくしてると近隣住民から苦情が来るのが世の常だが、この街は深夜にバイオロイドが騒音響かせ公共物を破壊しまくっていても苦情は一切ない。 肝の座った住人ばかりなのだろう。当事者の一人としては誠に有り難い。 それはともかくとして12月の夜風は冷たい、ましてやメリディアナは海辺の街で学校は高台にある。冷風当たり放題である。 それでも頬にあたる風が心地よく感じるのは、先刻うっかり摂取してしまったアルコール飲料のせいだろうか。 「大丈夫か?エイドリアン」 自身から吐き出されるわずかなアルコール臭に顔をしかめていたらルーカスの声が降ってきた。 「大丈夫じゃない。酒をジュースと言って教師に渡すなんて」 返した声が不機嫌なものになってしまったが当然だ。保護者代理として僕は怒ってもいいと思う。 渡されたミネラルウォーターは有難く頂く。 「まぁロリのやりそうなことだ」 もう一人の保護者代理はあっさりとしている。 12月最後のこの日に校舎一晩貸し切ってパーティしたいと言ったのは生徒達。 子供達だけではと眉を寄せ、大人が付き添うならと言いだしたPTA及び生徒一同に目を付けられたのがルーカスとエイドリアン。 「酒の持ち込みは禁止だったとちゃんと言っておいたのに」 それはパーティの条件の一つだったはずだ。 「まぁ、そう堅いこと言うな。あいつらの年頃にはこういう馬鹿馬鹿しいことも必要だ。お前だって覚えがあるだろ?」 「……ないよ。」 自分がロリくらいの年齢だった頃は正体がばれないように、目立たないように必死で、一緒に笑って楽しく騒ぐことができるような友達もいなかったし、欲しいとも思っていなかった。 そんなことは目の前にいる男に言えるはずもなかったが。 そんなエイドリアンの言葉をごく普通に脳天気に理解したのだろう。 お前、子供のころから堅物だったんだなとあきれたようにルーカスが呟いた。 エイドリアンは曖昧に笑って空を眺める。 彼女は今頃どうしてるんだろうな。もう一度ルーカスは呟く。 「彼女……?」 問い返してサイバーシックスのことだと気づく。 「こんな大事な時間を、寂しがっていないといいんだがな」 今日は大晦日で明日は正月だから、といとおしむ様に言葉を続けるルーカスにあなたが今気に掛けている人は隣にいるのよ、とそんなつっこみを入れるつもりは無いが、あまりにも優しい顔をして泣きたくなるような嬉しくなるような事を言うものだから…… 「ルーカスはサイバーシックスのこと大事な友達だと思っているのかい?」 ちょっとからかってみたくなった。 「ああ、大事だ」素直な肯定が返ってきた。 「じゃあ、僕は? 僕もルーカスのこと大事な友達だと思ってる。ルーカスはどうなんだい?」 ぎょっとした顔でルーカスがエイドリアンを見た。 「…………」 数秒の沈黙の後、酔っぱらいの戯れ言だと判断したらしい。 「お前まだ酒抜けていないな。もうしばらくそこで休んでいろ。帰るとき送っていってやるから」 今度こそあきれた、という顔でルーカスは校舎に戻っていった。 驚かせてしまったかな。怒ってなければいいんだけど ……でも本気で聞いたのよ エイドリアンは彼女の顔でふわりと笑って星空を見上げ、そして目をつぶった。 「私も、あなたを大事な友達だと思ってるわ」 もうすぐ新しい年が始まる END にげる |