それでも、ずっと好き
□惚れる
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昔の話だ。
遠い昔。
『惚れる』
「元就!」
大きな雲が流れていた。それを背に中国の地に降りた元親は、家臣の目も気にせず我に抱き付いた。毎度毎度の事で、我の家臣達も控え目に笑い、元親の子分達もからかうように声を上げるのだ。
「元親っ、皆が笑って居る!離さぬか!」
「良いだろ別に、気にすんなって!会いたかったんだからこんくれぇさせろよ」
「いよッ兄貴ィ色男!!」
これが毎度の事になったのは半年程前だったか。初めて出会った戦場で、どちらからとも無く惹かれ合い、その数日後に元親から停戦要請及び同盟の申し入れの文と共に、恋文が届いたのだった。我とした事が心を家臣達に読まれたらしく、特に我が幼い頃より仕える者達は微笑んでは「めでたき事です。お受けなさっては如何ですか?」などと、色恋沙汰に疎い我の背中を懸命に押してくれたものだ。
停戦を受け入れ、無論同盟も組み、幾度も我が城へ足を運んだ元親に、我自身が漸く想いを伝えるまでには二つの月を有した。元親が根気の無い者だったなら、きっとこうして抱き締められる今は無かったのだろう。
いつまでも抱き付く元親をどうにか引き剥がして、城の自室へ連れて行くと元親は神妙な面持ちで口を開いた。
「なぁ、元就?」
「何だ?」
「今日は大事な話が有んだよ…出来りゃあ今晩時間作ってくれねぇか?」
「構わぬぞ。だが今では駄目なのか?」
「あー…まぁ雰囲気も大事だからな…」
「?」