それでも、ずっと好き

□惚れる
1ページ/9ページ

昔の話だ。
遠い昔。








 『惚れる』













「元就!」

大きな雲が流れていた。それを背に中国の地に降りた元親は、家臣の目も気にせず我に抱き付いた。毎度毎度の事で、我の家臣達も控え目に笑い、元親の子分達もからかうように声を上げるのだ。

「元親っ、皆が笑って居る!離さぬか!」

「良いだろ別に、気にすんなって!会いたかったんだからこんくれぇさせろよ」

「いよッ兄貴ィ色男!!」



これが毎度の事になったのは半年程前だったか。初めて出会った戦場で、どちらからとも無く惹かれ合い、その数日後に元親から停戦要請及び同盟の申し入れの文と共に、恋文が届いたのだった。我とした事が心を家臣達に読まれたらしく、特に我が幼い頃より仕える者達は微笑んでは「めでたき事です。お受けなさっては如何ですか?」などと、色恋沙汰に疎い我の背中を懸命に押してくれたものだ。

停戦を受け入れ、無論同盟も組み、幾度も我が城へ足を運んだ元親に、我自身が漸く想いを伝えるまでには二つの月を有した。元親が根気の無い者だったなら、きっとこうして抱き締められる今は無かったのだろう。



いつまでも抱き付く元親をどうにか引き剥がして、城の自室へ連れて行くと元親は神妙な面持ちで口を開いた。

「なぁ、元就?」

「何だ?」

「今日は大事な話が有んだよ…出来りゃあ今晩時間作ってくれねぇか?」

「構わぬぞ。だが今では駄目なのか?」

「あー…まぁ雰囲気も大事だからな…」

「?」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ