それでも、ずっと好き
□高鳴る
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他人に話したところで信じて貰えはしない体験を我はしている。
前世の記憶、我はそれを有して現代に生まれたのだ。気が付くと「ちょうそかべもとちか」がただ頭の中に有った。
母に話すと「夢を見たのね」と穏やかに微笑まれたものだ。他の人には無いものだと解ってからは極力口にしないことにした。
しかし、古い記憶は我の心を浸食していった。
前世の我は日本史の教科書にも載る有名な戦国武将だ。知略を巡らせ、人を殺め、ひたすら国を守り続けた。我ながら頑なな心で国と家のことばかりを考えていた。幼い頃は人を殺める記憶に怯えていたものだ。刃を突き付ける我の視界に映る相手の顔には恐怖ばかりが見て取れた。
そんな古い記憶に嫌気が差した頃、ある人間を思い出した。その男は最初こそこちらを見て怒っていたが、次第に笑ってばかりいるようになった。
それからそう長い時を掛けずに昔の我の心が解れていった。
それが誰より愛した人間、「長曾我部元親」。
今の我は幼い頃から「ちょうそかべもとちか」ばかり探し求めた。約束をしたのだ、絶対にどこかで会える筈。我は覚えている。例え彼が覚えていなくても、探し出してみせる、と。
そうして我はまた、まだ見ぬ「長曾我部元親」に恋をした。