私のすべてをあなたに捧ぐ

□逃亡
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「キャプテン
無事でよかったっす!!」

「あの嵐でよく生きてられましたね。」


シャチとペンギンが顔に歓喜の色を浮かべて言う。
ベポなんて今にも泣きそうな顔をしていた。


「ああ。
運良くこの島に流されたみたいでな。

それよりお前たちもよくこの島に来れたな。
ログポースがここを指していたのか?」

「いや、それが…」


ローの問いかけにペンギンは言葉が見つからないのか複雑な顔をした。
それにローは怪訝な顔をする。


「おい、どうかしたのか?」

「あのねキャプテン
実は俺たち海王類から逃げてきたんだ。」

「なに?」


なかなか口を開かないペンギンのかわりにベポが言う。
なんでもないことのように無邪気に言っているベポだが、内容が内容なだけにローはますます怪訝な顔をした。
そんな二人の様子にペンギンはやっと口を開く。


「……べポの言うとおりなんだ船長。
俺たちはあの周辺をうろうろしていたんだが、昨晩海王類が現れたんだ。」

「そうなんすよ船長。
しかも結構大型だったんですぐに逃げたんす。」

「ほう。
よく無事だったな。
船にどこか破損したところはあるのか?」

「いえ、それがないんですよ。」

「…ならどうしてそんな顔をしてるんだ。」


ペンギンは難しい顔をして言った。
船が無事でしかもクルーたちも見たところ大きな怪我を負った様子はない。なのにそんな表情をするペンギンに何かあったのかとローの眉間にしわが寄った。


「…おかしかったんです。」

「は?」

「あの海王類俺たちを襲ってくる気配はなかったんです。
まるで、俺たちをこの島まで連れてくるのが目的だったみたいな…」

「…詳しく話せ。」

「はい。
先程も言いましたが俺たちは海王類からすぐに逃げたんです。
だが、そいつは船を追いかけてきた。
でもその様子がどこか変だったんです。

船を襲ってきたりするわけでもなくただただ付いてきてるような。
それでいて進む方向を間違えないように見張っていたような。」

「…」

「それでこの島が見えてくるとそいつはどこかに行ったんです。」


ペンギンが話している間ローはずっと何かを考えていた。
だが考えても答えがでないとでも思ったのかその話はいったんやめた。


「……まあいい。
船にもクルーにも問題がないのならそれは大した問題じゃねぇ。

それよりペンギン
食料の方は大丈夫そうか?」

「はい。
まだ余裕はあります。
ここから次の島までもたないなんてことはないでしょう。」


ローがペンギンに食料の在庫のことなどを訪ねていると、ローが見つかったことによほど興奮しているのかベポとシャチが話しかけてきた。


「それよりキャプテンよく無事だったね。」

「そうっすよ。
あの嵐で生きてるなんてさすがキャプテン!!
しかもこの島見たところ無人島っすよね。
キャプテンこそ食料とか大丈夫だったんすか?」

「はぁ。
落ち着けお前ら。」


ペンギンが呆れたように注意をするがそれくらいで興奮は収まらない。


「何言ってんだよペンギン!
キャプテンが生きてたんだぜ!?
かなずちのキャプテンがあの嵐の海に落ちて生きてたってのに落ち着いてなんていられるかよ!!」

「…まあ、それはそうだな。


本当によく生きてられましたね。
怪我の方は大丈夫だったんですか?」

「ああ。
俺も今回のことは運がよかったとしか言い様がねぇな。
この島に流れ着いたことも
そして、アイツに助けられたことも。」

「「「?」」」


ローの言葉に二人と一匹は不思議そうな顔をした。


「アイツって誰ですか?
この島って無人島じゃないんすか?」

「ああ、無人島だな。」

「「「?」」」


ますますわけがわからないといった表情をするペンギンたちにローは面白そうに言った。


「ククッ
狐がいたんだ。」

「狐?」

「は?」

「船長それはどういう…?」

「そのままの意味だ。
狐がいたんだよ。

妙に心配性な狐がな。」


ローは至極機嫌がよさそうな顔をして言った。
そしてその表情を見たペンギンはこれからの展開がわかってため息をついた。


「はぁ。
それで?
その狐を仲間にするんですか?」

「ククッ
察しのいいクルーで嬉しいぜ。」

「ほんと!?キャプテン
仲間が増えるの?」

「マジっすかキャプテン!?」

「ああ。
異論はないな。」


疑問符をつけずにローは尋ねる。
いや、その言い方はもはや尋ねるというより決定事項を確認していると言ったほうが正しい。


「…どうせ反対しても意味がないんでしょう?
まあ、でも
今回は俺もその船長を助けた狐とやらには興味がありますし、反対なんてしませんけど。」

「俺も仲間が増えるのは嬉しいし。」

「で、その狐ってどこにいるんすかキャプテン?」


シャチの問いかけでローはここに狐がいないことに気づいた。
仲間との再会のことに頭がいっていたので仕方がないだろう。

ローは近くで隠れているかあの洞窟にいるだろうと考えてこの二人と一匹を連れてそちらに向かうことにした。
そして、先ほど狐と一緒に来た船から少ししか離れていないところで自分の刀を見つける。


「…。」

「あれ?
キャプテン刀落としてたの?
よかったね見つけて。」


ベポが無邪気にそう言ってきた。
だが、ローは刀を落としたりなどしていなかった。

ローはあの日目が覚めた洞窟に刀を置いてきていたのだ。
初日は持って歩いていたが、この島に危険がないとわかったので次の日から刀を持ち歩いてはいなかった。

それなのにここに刀があることはおかしい。
自分は持ってきていない。とするとこれを持ってきたのはあの狐ということとなる。

それはどういうことなのか。
ローは嫌な予感がした。


「…おい。
急ぐぞ。」

「え?
キャプテンどうかしたんすか?」


シャチの質問にも答えずにローは走り出した。
それに驚くがすぐにシャチたちも後を追う。



そして、目的の洞窟に着いた。


「…」

「はぁ はぁ
キャプテン速いっすよ。」

「シャチ、大丈夫?」


「…どうかしたんですか?」


シャチは疲れたようで肩で息をしていてベポに心配されているが、それを無視してペンギンはローに尋ねる。
するとローは眉間にしわを寄せて言った。


「おい。
クルーたちに伝えろ。

この島の隅々まで探して狐を連れてこい、と。」

「は?」

「色は白だ。
尻尾が九本あって人がひとり乗れるくらいの大きさがある。
いいな、これは船長命令だ。」

「はぁ
わかりましたよ。

ベポ、シャチ
さっき船長が言ったことをクルーたちに伝えて来い。
詳しくは知らないが船長を助けた狐だ。
そういえばクルーたちもやる気を出して探すだろう。」

「え゛
ちょっ俺もう体力が…」

「アイアイ
わかったペンギン。
俺たち行ってくるね。」

「お、おいベポちょっと待っt」


シャチの主張を聞かずにベポはシャチを引っ張って行った。


「…」

「船長
そんなに難しい顔しなくてもすぐ見つかりますよ。
特徴を聞く限りわかりやすそうですし、何よりこの島はそんなに広くないですからクルー全員で探せば…」

「いや。」


ペンギンの言葉を遮ってローは言った。


「アイツは普通の狐じゃねぇ。
多分俺たちが探すこともわかってるはずだ。

見つからねぇ可能性の方が高いな。」

「…ではどうするんですか?」

「夜までに見つからねぇようなら探すのはやめろ。」

「諦めるんですか?」


ローの珍しい言葉にペンギンは驚く。
だが、そんなつもりはないらしいローはニヤリと笑った。


「いや
あっちがその気ならこっちにも考えがあるってだけだ。
手荒な真似はしたくなかったんだが…

仕方がねぇ。」

「…はぁ」


ペンギンはため息をついた。
それは呆れではなくここまでローに気に入られてしまった狐に対する同情からくるものであった。
今のローから逃げ切ることは不可能であろう。



そして、ローの予想通り狐は夜になっても見つかることはなかった。


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