短編夢:長編番外

□ホワイトデー2014
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『いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『桃弥うるっせぇ!!!!』
『やめて! 俺の唯一の趣味をとらないで!!!!!!』
『お前趣味いっぱいあんだろ裁縫とか音楽とか女装とか被虐とか!』
『最後の2つおかしいだろ!!!!』
『間違ってねーだろ!』
『女装は間違ってるよ!!!! するんじゃなくてさせるのが好きなんだよ!!!!』
『何にせよ女装だようるせーなつーか被虐趣味は否定しないのかよいいから黙ってろ!』
『俺の聖域(キッチン)がああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 と、いうやりとりがあったのは約30分前。今日は桃弥の誕生日である、ホワイトデーの2日前。前回の怜の誕生日には黄瀬ちゃんの家をお借りしたので、次回の桃弥の誕生日はオレんちでやろうという話になったのだが、

『ウチが一番広いからウチでやろうぜ』

 と怜がのたまったので、怜と桃弥が同棲しているマンションでやることに。怜の言い方はアレだったが、どうやら自分たちの誕生日で人様の家に迷惑をかける、というのが気にかかるらしい。今更気にしなくたっていいのにな。
 桃弥も承諾こそしたのだが、料理をするためにキッチンを借りると言った途端に冒頭の会話だ。まあ元から自分の仕事場を荒らされるのを嫌う奴だから、予想してたといえばしてたけど、ここまでとは思わなかった。仕方ないだろ、出来たての方が絶対美味いもの作るんだから。
 おいおいと泣き出した桃弥を諌めたのはやっぱり怜で、

『大人しくしてろ、そしたら膝枕してやる』
『わーい!』

 マザコン気味の息子をあやすお母さんにしか見えなかっただなんてそんな。
 ソファに座った怜の太ももに頭を預け、上機嫌でテレビを見ている桃弥は、随分大人しいものである。いつもあれくらいだと正直ありがたい。怜も大変だなと思うが、考えてみれば、オレと真ちゃんも、黄瀬ちゃんと笠松さんも、あいつらと同様にタチがネコを溺愛してるんだよな。そして反応に多少の差はあれど、ネコの3人はツンデレだ。オレたち6人は、わりと似た者カップル同士なのかもしれない。
 と、そうこうしている間に、オーブンから漂ういい匂い。そろそろ焼けたかなーと思いつつ覗き込むと、いい具合の焼き色がついた生地が見えた。だがもう少し。こういうのは焦っても仕方がないから、もう少しだけ待とう。

「あ、いい匂いしてきたな」
「カズーまだー?」
「まだもーちょい。焼けた後デコレーションもすっから、怜の膝枕堪能してな」
「え、なに? 怜ちゃんの太ももの感触実況してほしい?」
「一ッ言も言ってねえ」
「怜ちゃんの太ももって、人よりは鍛えられてるけどお前らよりは鍛えられてないから、程よい弾力なんだよなー。細身はもちろん細身なんだけど、ちょっと脂肪混じりっつーの? このむっちり感がまた……」

 ゴトッ、

「っ……〜〜〜〜〜〜」
「ソファから落ちたそうにしてたからな、お望み通りにしてやったぞありがたく思え」
「ほんとのことなのに……」
「今のは間違いなく桃弥が悪い」

 怜の膝の上から容赦なく突き落とされた桃弥は、頭を打ったらしく、声と肩を震わせながらうつむいた。『いたいよぅ、いたいよぅ』と聞こえてくるのが鬱陶しいので、ここは餌付けでなんとかしよう。

『♪♪ ♪ ♪ ♪♪ ♪ ♪♪』

 餌付け用のアイスを出そうとしたはいいものの、冷凍庫を開けるべく屈んだ矢先に、ポケットの中で携帯が鳴った。黄瀬ちゃんからだ。
 今桃弥たちのマンションにいるのは、料理担当の俺、大坪さん、小堀さん、森山さん。それから飾りつけ班の木村さん早川さん真ちゃん。怜の誕生日のときと一緒だな。
 プレゼント班の黄瀬ちゃん、笠松さん、宮地さんは、プレゼント調達のために外に出ている。何もパーティ当日に用意せんでもと思われるだろうが、これは仕方のないことなんだ。今回のプレゼントは少し用意が難しいものだったため、予約して取り置きしてもらっていたのだが、受取日がこの当日。それを3人に取りに行ってもらったのだ。
 携帯を手にとって、早く出ろとばかりに鳴り響いているそれの通話ボタンを押した。

「はーいこちら鷹の目」
『もしもーっし! プレゼント班、ばっちりゲットできたっスよー』
「おー、ありがとう! そろそろこっちの準備もできるから、早く帰ってきてな。あともうちょっとでメインが焼けるぜー」
「なーあーカズ今何焼いてんの? メインてそれ何焼いてんの?」
「うっさい桃弥ちょっと黙ってろ」
『祝われるはずの桃弥っちがフルボッコされてるじゃないっスか……』
「怜ちゃああああああああああああんカズがいじめるうううううううあああああああああああああああああああ」
「うるせぇ」
「痛い!」
『そっちすごいことになってるっスね』
「ほんとだよね。先輩方苦笑いなんだけど。ま、本格的に始めるのはみんなが帰ってきてからだから……」
「涼太たち帰ってくるまで食えねーの!? うそぉ!?」
「「『うるせぇ(っス)』」」
「みんなが俺をいじめる……」
『じゃあすぐ戻るっス! 桃弥っちにつまみ食いさせちゃダメっスよ!』
「わーかってるって。じゃーなっ」

 通話を切って桃弥の方を見ると、どうやらまた怜に叩き落とされたらしい。カーペットのように床に伸びていた。桃弥の頭と怜の拳から煙が出ているところを見ると、どうもぶん殴られたようだ。ご愁傷様としか言い様がない。ていうかこいつこんなに食い意地張ってたっけか?

「食い意地云々じゃなくて、俺はカズが丹精込めて作ってくれてるそのメインとやらが食べたいだけなんだよ」
「それ食い意地と何の差が」
「チッ……生きてたか」
「怜ちゃん殺すつもりで俺殴ったの? ねえ?」
「要するにお前は、ただ単に何でもかんでも食いたいんじゃなくて、高尾が作ったもんだから食べたいんだよな」
「え、無視? ああでもまーそういうこと」

 そんなこと言われるとちょっとかわいいとか思っちまうじゃねーか桃弥のくせに。腐男子のくせに。
 今めっちゃ罵倒された気がする……と言いながらジト目でこちらを見てきた桃弥を無視して、俺は大坪さんたちと共に作業に戻る。イベントごとはなんだかんだ、その準備段階が一番楽しい気もする。もちろん本番もちゃんと楽しむけどね。

「愛されてんなー高尾」
「やめてくださいよ森山さん。ただの腐れ縁なんで」
「つーか桃弥に愛されてるとか言うと、銀橋に怒られるんじゃないか?」
「木村さんの言うとーりっすよ! そもそも俺が愛してるのは真ちゃんだけなんで!」
「ドヤ顔がうざいのだよバカ尾」
「ひでぇ」

 いつものことだけど真ちゃんがひどい。しかし、部屋を飾り付けながらこちらを振り返る真ちゃんはかわいい。祝われる側がいる前で部屋の飾り付けもどうかと思うが、雰囲気は大事だと本人たちが言うものだから、飾り班が絶賛デコレーション中だ。
 ホワイトデーなので、白と青を中心にした飾り付けとなっている。青いリボンを壁に飾ろうとして、うまく留められずに頭に落ちてきたそれを恥ずかしそうに払いのけようとする真ちゃんマジ天使。

「あれ恥ずかしそうなのか?」
「鬱陶しそうなだけだろ。高尾には鷹の目という名のフィルターがかかってる」
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