長編連載

□決めあぐねてるみたいだから
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 そうそう、近々どこかのチームと練習試合しようって話になったんだよな。だからいつもよりゲームが多め……。個人メニューが少なくなるが、その分居残りが増えるか増えないかで、あいつらの根性も量れるしな。今後の予定表を見れば、来月の土日のどこかに練習試合を組むつもりでいるのだろう。土日がきれいに無印だった。

「ふーん……来月に練習試合、か」
「そうなのか?」
「ぅおっ!?」

 いつの間にやら背後から手元の予定表を覗きこんでいた笠松さんに、不覚にも驚いてしまう。足音と息遣いは聞こえたのに、てっきり涼太かと……クソッ! 笠松さんと涼太の差くらい気付け俺!

「っと……みたいですね。来月中に最低2校とやるっつったかな」
「そうか…どことやるかは決まってんのか?」
「いやそれはまだですね。県内か、遠くても東京とか……」
「黒子っちが行ったとことやりたいっス! なんつったっスっけあそこ」
「誠凛だな。あそこかぁ」
「いや怜。黄瀬が急に出てきたことと、下半身しか着てないことに突っ込め」

 Tシャツ着ろよお前は! と、笠松さんが涼太に肩パンを2発と蹴りを1発。耳が赤いよ笠松さん! かわいいよ!! そして涼太をもっとシバいてやってください!
 ひとしきり涼太をいじめて気が済んだのか、ため息をついた笠松さんが俺に向き直った。

「でも誠凛は……なぁ?」
「ですねー」
「え? なんでスか?」

 腰をさすりながら涙目になって言った涼太に、俺が『アホ涼太』と返す。つかうん、Tシャツ着ろよマジで。

「誠凛は去年、東京都予選で1年だけでベスト4まで行ってる新設校だ」
「すげーじゃないっスか!! なんで『誠凛は』なんて……むしろウチみたいな強豪とやれるんだし、向こうにとっちゃ好都合なんじゃ」
「だから、それは『向こうにとっちゃ』、だろ?」
「ウチにとってみりゃ、どうだ?」

 俺の言葉を引き取るように、笠松さんが続けた。そこでようやく気付いたのか、涼太は『ああ!』と半裸で手を叩く。

「そう。誠凛にしてみりゃ、俺たち海常との練習試合は、自分たちに加えて『幻の6人目』であるテツヤが、どれだけ強豪に通用するか。また、こっちのスカウティングもできるっつーメリットがある」
「逆にオレたちのメリットは特に無い。東京の、それもいいとこ行ったとはいえ新設校だぞ? I・Hに上がってくるかも解らないところより、県内の代表争いするだろう高校を選ぶだろ、ウチの監督は」
「ああー……」

 首がもげそうな勢いで、涼太がガックリと項垂れた。それを慰めるようにポンポンと背中を叩いて、笠松さんが言う。

「ま、落としどころがあれば違うんだろうけどな」
「なんだったら俺が監督を説得してやんよ。まあ、レギュラー陣が全員OK出したらな」

 俺が言うと、涼太が苦笑いを見せてから再び項垂れた。笠松さんは呆れたようにため息をつき、丸まった涼太の背中を蹴り倒す。ああ、もう部活開始の時間だな。
 主将が練習開始の号令をかけると、選手たちがスピーディーな動きで次々と練習を始める。いいな〜やっぱ、この感じ。俺はやはり、やるよりサポートする方が性に合ってる。
 なんてことを思いながら、俺は練習試合の相手に思いを馳せた。神奈川県内の強豪でもいいんだが、笠松さんたちはやり慣れてるだろうし。涼太が他校との試合において、どれだけ使えるか見極めるとしたらまあ……

 うーん。







 そうだ! こんなときの交友関係だろ!!

 そう言いながら携帯を開いた俺を、森山さんが面白いものを見る目で見ていた。
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