短編夢:長編番外

□クリスマス
4ページ/7ページ


 * * *

 ロングスカートサンタにされて、コルセットで締められて見事にくびれた緑間は、少し青い顔をしてこちらの部屋へやってきた。ああ、オレもあんな顔をしていたのだろうか。オレも緑間同様コルセットでウェストを絞られ、くびれができてしまっている。しかもこのコルセット、金本のお手製らしい。本格的に何者なんだあいつは。

「笠松さんかわいかったな〜締めたとき」


『はっ……ん、っく…ぁ、ぐ……っ、はぁ…んっ…やっ……も…でるっ……』


「ほんとかわいかった……!」
「落ち着け怜。お前が笠松クラスタなのは解ったから」
「笠松お前……締められてヨかったのか」
「内臓がだ! 内臓が出るって意味だ!! シバくぞ森山!!」

 オレの言葉を聞いて、緑間がその通りだとばかりに頷いた。だっておかしいだろ、あれ。ああまでしてウェスト絞ってどうすんだ、そのうち締め殺されるぞコルセットに。くっそ、バカにしてる奴ら全員にコルセット締めてやりてぇ……特に森山………!!! 実際問題、コルセットが女性の常備品だった時代では、コルセットの締めすぎで昏倒する人なども多かったらしい。それを利用して、意中の男に抱き抱えられたりしたかった、というような可愛らしい思惑が彼女らにはあった、と、金本は言う。
 オレたち女装組の準備が整うと、みんなでノンアルコールシャンパンで乾杯した。黄瀬たちが20歳になるまで、みんなの集まりでの酒は控えて、成人後の楽しみをとっておこうとの大坪の提案だ。未成年組は気にせずに飲んでくれと言ったが、それではオレたちも楽しさ半減だし、目の前で飲んでいるのに我慢させるのも気が引けた。そういうところにはちゃんと良識のあるメンバーだ。全員が成人するまでは酒は飲まないと、最終的には満場一致で決まった。
 それはそうと、改めてテーブルの料理を見ると、本当に金本と怜が何者かわからなくなってくる。サンドイッチは一口サイズのものがピックで留められ、ハートや星の形に切り抜かれている。七面鳥は丸焼きにされていて、鶏肉より淡白と言われているのにむしろちゃんと味がついている。大振りなブッシュ・ド・ノエルは2種類あって、スタンダードなチョコレートと、フルーツがメインのものだ。上に乗っているのは…

「サンタか? これ…」
「あっ、かわいいっスねーこれ!」

 オレが見ていると、黄瀬が横から頬を寄せるようにして言った。顔が近い。びっくりして思わず1歩引こうとすると、ニーハイのせいで滑ってしまった。倒れそうになったところを黄瀬に支えられる。

「大丈夫っスか?」
「あ、ああ……悪い」

 女装しているせいだろうか、なんだかいつもよりドキドキしてしまう。黄瀬がムカつくくらい美形なのはいつものことだが、ちくしょう、今日は素直にかっこいいと思ってしまった。なんかムカつく。

「―――見せ付けてくれるよなぁ。なあ、サンタさん?」
「……、黙れバカ尾」
「うん、ちゃんとケーキ飲み込んでから言うあたりが真ちゃんらしいや」

 黄瀬に抱き起こされるようにして立ち上がると、怜がケーキを切り分けてくれた。オレの分には件のサンタも乗っている。

「かわいいっしょ? 苺を真ん中らへんで輪切りにして、間に生クリーム絞って、チョコビーで目つけただけなんですけどね。シュガードールでも良かったんだけど、あれ砂糖だけだから飽きるっしょ」
「怜のそういう才能と思い付きマジ助かるわ。俺そういうのは思い付かないからな〜」

 なんて言って金本が笑った。思い付きってなんだよ、とばかりに彼を睨んだ怜は、さっきまであんな目をしていたとは思えない笑顔で、オレにオードブルをとった皿を渡した。変に面倒見の良い奴だ。

「でも美味いなこのフルーツとか…。ケーキとじゃなくて単体の方が好きかも」
「ああ、ありがとうな。オレんちの果物だ」
「マジか! 木村んち八百屋だったもんな」
「おう。桃弥たちからの要望が旬じゃないのも多かったから、ちょっと親父に無理言った甲斐があったぜ」
「へぇ……うん、美味い」

 木村が力強く笑うと、つられてオレも笑ってしまう。
 こういった集まりが定番化するまで、まさかオレたち海常と秀徳がここまで仲良くなるなんて思ってもみなかった。本来なら、都道府県も違うし、関係が深いわけでもないはずの両校に、お互いが友達と呼べる存在になるような接点はあまりない。それなのに、こんなに騒がしくて、バカみたいで。だけどそれを充分楽しめるのは、オレたちを引き合わせてくれた、あの2人のおかげなのだろう。

「桃弥ー、お前あれどこしまったんだよ」
「あれって?」
「あれだよあれ。シュークリームをぶわって積み上げたやつ」
「ああ、シュークリームぶわって積み上げたあれか。オレの部屋の箱の中。暖房切ったし、冷蔵庫の中より崩す心配がねーからさ」
「了解。とってくる」

 ほんと、ありがたい。
 その後怜が持ってきた、シュークリームをぶわっと積み上げたやつには驚かされた。あと、金本の飴がけがやたら巧かったことにはそれより驚いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ