短編CP

□倉庫にしまいこまれたリヤカー
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 猫が死んでいた。

 通学路のど真ん中で、もう黒くなりかけてしまった血が、ぬらりと陽光を反射して、俺の目に入ったのはついさっきの出来事。部活に向かうため炎天下一人歩いていた、夏休みの終わる日の朝だった。

 なんとなく、それに近寄ってみた。可哀想に、轢かれたのだろう。かろうじて猫だとわかったのは、砕けた骨とぐちゃぐちゃになった血管が覗く、生首が残っていたからだ。首から下は文字通りに潰されてしまい、ピンク色の細長いものが露になっている。ああ、これは小腸か何かだな。なんて、呑気に思った。

 幸いオレがそれを発見したとき、車の通りは無かった。今どかしてやれば、これ以上悲惨なことにはならないかもしれない。部活にはまだ時間がある。「やだなにあれ〜」なんて小さく悲鳴を上げた女子高生を背に、オレはそれを抱え上げた。

 思ったほど冷たくはなかった。陽炎の揺らぐこの暑さのせいか、毛皮のせいかはわからないが、なんとなく、ほんのりと温かみがある。秋口の空気に晒され、少し冷えただけの人肌のようだと思った。

 流石に内臓は病原菌とかが怖いので、すでに持った生首と、拾い上げた前足であろうものを抱え、オレは近くの公園に向かった。さっきの女子高生だろう。怯えたような顔を作った茶髪の女が、ウジ虫でも見るみたいな目でオレを見ていた。まぁ、「みたいな」じゃなかったかもしれない。実際問題この哀れな生首は、眼球を突き破って、ウジ虫が湧いてきてもおかしくない有り様だったから。

 公園までの道のりも同じだった。多少の差はあるが、さっき見た女みたいなキャラメル色の髪で、子供が見たら泣いて逃げ出すような化粧をした女子高生たちが、変な目をしてオレとすれ違う。ああ、そういえばこの辺て、女子高近いんだっけ。興味もなかったが、部の先輩に教えられたことを思い出した。なんでこんな頭悪そうな連中が、世間では可愛いなんて持て囃されるんだろう。オレにとってはお前の方が綺麗だぞ。腕の中の生首に囁いた。
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