短編CP

□再来年には指輪を
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「ん」

 ん、て。そんな唇きゅっと結んで「ん」なんて言われても。オレはどうしたら。
 なんて、するべきことは解っている。真っ赤な顔を誤魔化すように眼鏡の位置を直す真ちゃんがオレに押し付けようとしている、この茶色い袋にリボンを付けただけという何かを受けとればいいだけだ。何か、というか、きっぱりと言ってしまえば、これはオレへの誕生日プレゼントだ。
 今日、11月21日はオレの誕生日。そうよ私は蠍座の男。自分で言っててキモくなってきたからやめるわ。朝起きると妹ちゃんが作ってくれたという、ちょっと焦げたホットケーキを食べ、完食したところで「おたんじょうびおめでとう」と、ふにゃりとした笑顔で言われた。両親からはそろそろ買い換えたいと言っていたバッシュを手渡され、「誕生日おめでとう」と微笑まれた。中学からの友人には、頭から爆弾のように飴やらグミやらのお菓子を降らされ、「たんじょーびおっめでとーぅ!!」とバカみたいな笑い声を浴びせられた。
 外面がいい……良く言うなら愛想が良い、さらに悪く言えば八方美人なせいか、やたらと人から誕生日を祝われた1日だったように思われる。いつもはおっかない先輩たちでさえ、持ち寄ったお金でマフラーを買ってくれたのだ。オレとしてはもっと真ちゃんとバスケをしていたいから、誕生日なんて来なければいいのに、なんて子供のようなことを考えていたのだけれど。それでも、誕生日を覚えていてもらって、それを祝ってもらうというのは、悪い気がしない。それも、好きな人なら尚更だ。
 部活の終わった寒空の下、いつものようにチャリアカーで下校していたオレたちは、ふと初冬の空を見上げて立ち止まった。ぶわっと1つ吹いた風に、首に巻いたマフラーを押さえた。都会の空では、まったくと言っていいほど星が見えない。チラチラと瞬く瞬間、「あ、そこだったのか」とようやく解る程度だ。これではペルセウス座流星群とやらも、見えたもんじゃないだろう。
 なんて思って真ちゃんを振り返り、冒頭に戻る。

「………えーっ、と?」
「…………」

 なんで真ちゃん黙っちゃうんだよ! このヘタレぼっちゃまめ!

「誰がヘタレぼっちゃまなのだよ」
「おっと心の声が」

 不服そうな顔をして言った真ちゃんが、ずり落ちた眼鏡の位置をまた直す。いつもは不遜なくせに、こんなときばかり恥ずかしがって、それをへたっぴに誤魔化そうとするのが、たまらなく愛しい。というより、堅物で、バスケ以外のことで滅多に顔色も変えない真ちゃんが、オレごときのことでこんなにもポーカーフェイスを崩しているのが、この上なく嬉しいのだ。

「…しーんちゃん、」
「………なんだ」
「それ」
「っ別に、お前のためではない。たまたま外に出たときに、たまたま目に入ったものを買ったら、たまたまもともと持っていたから、たまたまお前にやろうと思っただけなのだよ」

 饒舌になったと思ったら、デレと「たまたま」の多いツンデレ全開。普段あんなふうにオレを攻め立てる奴と、同一人物とは思えないくらいだ。それにしても焦りすぎっしょ。
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