短編CP

□背中と唇があったかくて
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 こたつみかんは本当に正義だと思う。冷たい風が吹き、空気が鋭く突き刺してくる外から帰ってきて、半纏を着てこたつに潜り込む。すでにじんわりと暖かい。こたつの上にはみかんと湯呑みと急須。そばにはポット。緑茶を淹れて一息つく。冷たくなった体に染み渡る感覚が心地いい。もう1歩も出たくない。これがこたつの恐ろしいところだ。依存性物質でも発散してるのかというくらい、オレを放してはくれない。真ちゃんみたいだなーと思う。

「ね、真ちゃん」
「意味が解らないのだよ」
「だーからぁ、オレが真ちゃん無しじゃ生きていけないんだぜ〜ってこと」

 言うと、こたつの反対側でオレのと色違いの半纏を着た真ちゃんが、眉をひそめて小さく首を傾げる。かわいい。みかんをとる手が白くて綺麗で、思わずまじまじと見詰めてしまった。しかしそのまま真ちゃんに剥かせては、左手のテーピングが汚れてしまう。指先が黄色くなったテーピングとか見たくないっしょ。オレは手を伸ばして真ちゃんからみかんを受け取ると、皮を剥いて渋までとってあげた。真ちゃん苦手だもんね〜コレ。

「あ、真ちゃん。おしるこじゃなくて平気かよ?」
「別に構わん。お前が淹れた茶だろう、文句は言わない」

 おっと真ちゃんはデレ期が到来しているようだ。半纏からちらりと覗く指が、萌袖のようで愛らしい。そのままふわりと微笑むもんだから、可愛らしさ倍増だ。
 恋人と家でも一緒にいられるのは、本当に幸せなことだと思う。大学生になって真ちゃんと同居するようになって、それをひしひしと感じる。同じ大学に入学したわけではないが、家に帰れば真ちゃんがいて、そうでなくても、家で待っていれば真ちゃんが帰ってくる。幸せだ。「おかえり」も「ただいま」も、両親とかじゃなくて、真ちゃんはオレに言ってくれてるんだ。それが、たまらなく嬉しくて。

「そーいやさ、宮地さんこないだお見合いさせられそうになったらしいよ」
「させられそうに?」
「うん。『オレには大坪がいるんだよ!』っつって、相手の写真蹴り飛ばしてきたらしいよ」
「あの人らしいと言えばあの人らしいが…」

 他愛のない会話もゆるゆると続く。真ちゃんは、初めて会ったとき……つーか、初めて見たときより、表情豊かになった。最初のうちは、眉を寄せて皺を作るか、バカにしたように笑うかしかなかった。だけどそのうち、感情を表に出して怒るようになったり、みんなとバスケしてて笑ったり、オレといて、微笑んでくれるようになったんだ。オレや黄瀬くんみたいに表情がコロコロ変わるわけじゃないけど、微かな変化が愛しい。微笑んだ口元が可愛くて、キスしたくなったけれどこたつが邪魔だった。
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