小説置き場

□セクハラ
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耳を澄ますと謝肉祭での華やかな演奏が遠くから響いてくる。
ドンドンと心に響く太鼓の音、軽やかな、この街に合うような笛の音色が壁や山に反響して四方八方から聞こえてくる。

そんな心地よい音を、俺は今、酔った身体を冷ますためバルコニーで感じている。

酒は普段から少し師匠と酒を呑んで耐性はついたと思っていたが浅はかだった。思いっきり酔ってしまい、身体が熱い。

シンドリアの夜の気候は昼に比べると格段に涼しくなり、火照った顔や身体に丁度いい温度だ。

本当に浅はかだった。こんなことでは明日に反響してしまう。

ただえさえいつもキツイと感じるあの地獄の特訓。明日の修行では激しい運動と、おまけに二日酔いがついてくるだろう。
いつもと同じ量を呑む予定だったが、さすが宴の場。
自分が思っていた以上の飲酒をしてしまった。

明日はどうなるんだろう…

明日師匠に扱かれる様子が目に浮かぶ

そんなことを考えていると後ろから足音が聞こえてくる。
後ろを振り向く気力も無く、通り過ぎるのを待つ。

「やあ」と、そういいながら俺の肩を叩いた人物。

声を掛けたのは俺の憧れでもあり、この国を収める、シンドバッドさんだった。

しかし、いつもの覇気のあるシンドバッドさんとは違い、まるでオーラが感じられない。
そして鼻につく強烈な酒の匂い。いくら嗅ぎ慣れているとはいえこの匂いはキツイ。シンドバッドさんの口からではなく、寧ろ身体から酒の匂いを発している。
いや、もうシンドバッドさんが酒でいいような気でさえしてきた。俺は酔っているのか?
この国の王なのだからたくさん呑んでいても仕方ない。
が、でもやはり嗅ぎ慣れない酒の匂いに顔を顰(しか)めてしまう。

「悪い悪い」そう笑いながら頭を掻く。
その言葉に謝罪の気持ちは微塵もこもっていないだろう。

残念なイケメンとはまさにこの人の為にあるような言葉だ。

同時にある疑問が浮かんだ。
「なんでこんなところにいるんですか?」
そう、普通なら最後まで宴の場にいなくてはいけない人。そんな人が今何故俺の目の前にいるのだろう。

「上をみたら君がいたからね」
そうにっこりと微笑むシンドバッドさん。
さすが七海の女たらしの名を持つだけのことはある。まあ不名誉だが、男の俺でも惚れてしまいそうになる。
「シンドバッドさん、まだ酔ってますね」
「何故?俺は酔わないよ」
何を言っているんだこの人は。

今までに前科がたくさんあっただろうに。ジャーファルさんの労苦が絶えない理由が分かった。
シンドバッドさんから声をかけられる。

「ねえ、アリババくん」

「はい?」そう言おうと思った瞬間、わき腹から腰にかけて肌を掠めるようになぞられる。

「…っひゃぁ!」
あまりの唐突さに声を抑えることが出来なかった。
折角爽やかな夜風で冷めていた顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。
「なっ…何するんですか!」
シンドバッドさんの方をキッと睨みながら見ると楽しそうに、それでも扇情的に口元に弧を画いていた。
「ふふふ、…やっぱりアリババくんは可愛いね」
頬に手を添えられ目元をなぞる。

目元にあった手をこめかみから耳、耳の後ろ、首、胸、わき腹、腰にかけて緩やかに、しかし場所によって強弱をつけてなぞられる。
酒で敏感になった身体は些細な刺激でも拾いあげてしまう。
触られるだけで身体が震える。
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