小説

□手を伸ばすから
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「久し振りにバトルする?」

トキワジムの裏口の扉から顔を出した最強のチャンピオンは、最強のジムリーダーと目を合わせ、にへらと笑った。







「フッシー、"ハードプラント"!!」
「リザードン、"ブラストバーン"!!」

互いの指示が重なり、草と炎と、最強のエネルギー技が放たれ、フィールドの真ん中で衝突する。
いつもならここで爆発して相打ちで終わっていたのに、この日は違った。

ギュオォゥオワァッ

普段鳴らないような音がジム内をこだましたかと思うと、目を見開くような展開が巻き起こった。

"ハードプラント"が、"ブラストバーン"を押し切ったのだ。

その巨大な蔓は、力を出し切った反動で動けなくなったリザードンに直撃した。案の定リザードンは倒れ、軍配はチャンピオンに上がった。









力量差。
今になって気づく。
大体、草と炎の最大エネルギーがぶつかって互角な時点でアイツの方が強いという事実は痛いほど分かっていた。


「…あははっ」

突然アイツは笑い出した。
バカにしてんのか?
そう思って、若干イラつきながら振り返ると…

「はははっ…何だろ、震えが止まらないや」

目の前にあったのは、嫌味を含んだ笑みでも、勝利を喜ぶ純粋な笑顔でも無かった。
赤い瞳は小刻みに震え、顔は引きつって笑みが不自然に浮いている。

「…レッド?」

様子がおかしい。見ているカンジ、動揺しているようだが…

「今の…さ、グリーンはどう思った…?」

わなわなと震える唇から、声が絞り出される。

どう思う…か。
正直に言えば、鳥肌が立った。常識はずれな展開に身震いがして、ただただ驚くばかりだった。呆然とし過ぎてそのとき何を思ったかも覚えていないのが実情なのだが。

「…怖かったでしょ?」

思考が回ることで間があき、その一瞬の間により、レッドの顔が哀しい笑みで満たされる。

「いや、何も怖いとは…」

「嘘付かないでよ」

否定してみるが、先程感じたあの身震いは、武者震いの類ではない。その強さに一瞬恐れたのだ。感情の起伏にやたら敏感なレッドは、その一瞬を見逃さない。


「恐ろしいだろ?有機物である筈の蔓が炎を打ち破って突っ込んでくるんだもんね。怪奇現象モノだよね?気持ち悪いよね!!」

畳み掛けるように声を荒げる。


「リーグを優勝したばっかりの頃は"チャンピオン"と呼ばれて尊敬されたよ。照れ臭かったけどね。でも今じゃなんて呼ばれてると思う?"化け物"だよ!?強さを求めすぎて、俺は人間として見てもらえなくなった!!」


黙って聞いていたが、息継ぎもしないで、過呼吸になりかけてもなお口が止まらないことに気付き、慌ててそれを制する。

「レッド」

彼の体を腕の中に収める。俺の鼓動を聞いて、口を噤んで少し落ち着いていくのを見計らってぽんぽんと頭を軽く叩く。

「…子供扱いしないで」

「情緒不安定な時点でまだ子供だろ」

頬を膨らませながらも体を預けてくれるから、嫌では無いんだろうな。

「俺はお前を親友として見ている」

「……うん」

「力量差がついて、まぁ悔しいっちゃ悔しいな」

「…やっぱり?」
そう言うとまた寂しそうな顔をするから、子供だなと笑うと、赤面しながら子供じゃないと拗ねてくる。うん、子供だ。




「でも…」

「なあに?」









「お前の心の寄り所が俺っていうのは凄く嬉しい」










ぎゅ。

レッドの腕が腰にまわる。顔を俺の胸に押し付けてくる。湿らないから泣いてはいないらしいが、落ち着いてくれたかなと思うとまた嬉しくて、暫くの間その状態を続けていた。
















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