小説

□腕の中
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『どこにいるの…?』

『ぱぱ…まま…』



何処かで子供の声がする。
聞いただけで悲しくなるような悲痛な声をあげて親を呼ぶその子供は恐らく迷子なのだろう。

ぱぱとまま、見つからないの?
俺も一緒に探してあげるよ。

子供の目の高さに合わせてしゃがんで笑ってみせたら、その子供は安心したのか泣き止んで、手を広げてやれば俺の腕の中にすり寄ってきた。

ほぉら、高い方が探しやすいだろ?

そのまま抱き上げて店内を回れば、焦った表情で辺りを見渡す男女二人の姿が目に入る。腕の中の子供もその二人を凝視してたから、俺も迷わず其方へ向かった。

『わざわさわありがとうございます』
『ほらっお兄ちゃんにお礼言いなさい』
『ありがとう、おにいちゃん』

家族が再会できて良かった。お礼を言われて嫌な気持ちになんかならないし、その家族に手を振って俺は笑顔で帰路へ向かった。









◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









『どこにいるの?』

『おとうさん…おかあさん…』

『おれ、いいこにしてるから』

『はやくかえってきてよ』



また子供の声…でもここはお店でもないし、まず俺の部屋だ。

『おなかすいたよ』

何処かで聞いたことがあるようなこの声は

『おねがい…かえってきてよ…』

悲痛な、胸が張り裂けそうになるこの声は

『おるすばんはもうやだよ…』

ドアの前で泣きながら立ち続けるその子供は間違いなく

『さみしいよ』

…間違いなく、この俺だ。









◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「どうした?こんな時間に…」

太陽が完全に沈んだ真夜中、無意識の内か足が勝手に恋人兼親友の家に向かっていた。

「なんかごめん。迷惑だった?」

「いや、構わん。何かあったのか?」

本当に突然押し掛けたというのに、彼は優しいからすぐに受け入れてくれる。その存在が嬉しくて、柄になく甘えたくなってしまう。

「…小さい頃の夢、見たんだ」

そう言って顔をあげると、彼は優しく笑って手を広げていた。

「…ほら」

「……!!」

昼間の、お店での出来事と重なる。
そのときは俺が迷子になった子供に同じことをしていて。
そんな俺は今、心の迷子で。



俺は、その腕の中に思い切り飛び込んだ。












泣きたいときは泣けばいい

無理矢理笑顔を作るより

大分楽になるだろう

それでお前が救われるのなら

何度でもこうしてやる

…嫌だと言っても離してやらないからな?












全く俺は、とんだ幸せ者だよ








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