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□千の想い
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「先輩?まだ、寝ていなかったんですか?」
「ごめん…起こしちゃったかな?」
「いえ、それよりもちゃんと睡眠とりましたか?」
「大丈夫。直斗のおかげでちゃんと眠れているよ」

叔父さんと菜々子が入院してから、あまり睡眠と食事をとっていない俺を心配して、直斗はこうやって堂島家に
泊まりに来るようになった。
一緒に食事をして、一緒の布団に入って寝る。
直斗が傍にいてくれるだけで、心が安らいでいくのを感じる。

「何をしているんですか?」
「鶴を折っているんだよ。叔父さんと菜々子が早くよく治るように千羽鶴を作って病院に持って行こうと思って…」


鶴を千羽折ったら、願いが叶うと言われている。
1枚の神に魂を折り込む事で呪力が発生し、1000という数字は神仏の数字であり、人は自分自身では、1人の知恵や力
はないけれど、神仏が味方をすれば千人の人間を集めた知恵や力を授かる事ができると何かの本で読んだ事がある。

夜、眠れない時は、いつも1人で鶴を折っていた。
今の俺に出来る事は、犯人を捕まえる事とこういう願掛けしかできないから。

テーブルの上には、色とりどりの折り鶴でいっぱいだった。
時計を見れば深夜3時。
1時間ぐらい自分はこの作業に没頭していたらしい。
直斗が起きなかったら、朝までやっていたかもしれない。


「…僕も手伝いますよ」
「いや、直斗は寝てて良いよ。それにあともう少しで終わるから…」
「やらせて下さい。僕も堂島さんと菜々子ちゃんの為に鶴を折りたいです。それに…2人でやったら、より想いが強くなって
、願いが叶いそうじゃないですか」
「ありがとう…これが終わったら、ちゃんと寝るよ」
「約束ですよ…えっと、す、すみません。折り紙をするのは幼稚園以来やっていないので…」

正方形に折ると、そこから直斗の手が止まってしまった。

「次はこうするんだよ」
「あっ…」
「ここに折り筋をつけて…」

直斗の後ろに回り込み、腕の中に抱きしめるような恰好で、彼女の手先に触れながら、一緒に鶴を折っていく。

「直斗…手を動かして」
「む、無理です!だって…先輩がこんなにくっついたら…集中できません」
「あ、ごめん…この体勢だと折りにくいよな。本があるから、直斗はそれを見ながらやって。直斗は手先が器用
だから、すぐに出来そうだ」

本を取る為に、直斗から離れようとした時、直斗が俺の手を掴む。

「直斗?」
「あ、あの…1羽だけ一緒に折ってくれませんか?さっきみたいに…」
「…ああ、いいよ」

直斗と一緒に折った鶴が一つできると、それからは体を離して、お互い黙々と鶴を折り続けた。
どうにか千羽できると千羽の折り鶴をかごに入れる。

「直斗?」

水色の折り鶴を持ったまま、直斗は動かない。
その鶴は…俺と直斗で最初に一緒に折ったものだ。

「あの…この鶴をもらってもいいですか?」
「んっ?別に構わないけど…部屋にでも飾るの?」
「いえ、お守りにするんです」
「お守り?」
「貴方に教えて貰いながら、鶴を折っている時、たくさんお願い事をしたんです。堂島さんと菜々子ちゃんの快癒と八十稲羽の平和と
…ずっと貴方と…皆さんと一緒にいられますようにって…」
「直斗…」
「それに…貴方と2人で初めて作ったものだから、ずっと持っていたいんです」
「…もう一回だけ一緒に鶴を折ってくれないか?」
「えっ…」
「俺も…直斗と一緒に作った…直斗と俺の想いがこもった鶴をお守りに持っていたいな」
「いいですよ。ふふっ…おそろいになりますね」

顔を赤らめながら、嬉しそうに笑う直斗。
…でも、俺と彼女の願いが叶う事はなかった。
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