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□帰る場所
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帰る場所
瀬多が1人住まいしているマンションの前にスーパースポーツタイプの赤いバイクが停まっていた。
そのバイクの上には、具合が悪いのか少女が倒れていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「…せんぱい?」
「…直斗」
瀬多が声をかけると少女は顔を上げた。
少女は、瀬多の恋人である直斗だった。
驚く瀬多と目が合うと直斗は笑った。
「せんぱい…」
バイクから降りようとした時、直斗の体がよろける。
「大丈夫か!?」
「せんぱい…」
抱きとめられた直斗は瀬多の胸に顔を埋める。
息が荒く、顔も少し熱い。
彼女のおでこに手を当てる。
「…熱があるのか!?今すぐ病院へ…」
「…お前が…"先輩"か?」
「えっ?」
直斗を抱き上げようとした時、男の声が聞こえた。
周囲を見回すが、男の姿は見えない。
「ここだ、ここ!」
「えっ…うわぁ!?」
直斗が乗っていたバイクが人型に変わる。
「…ロボット?」
「ったく…治るまで我慢しろと言って止めたんだが、『今すぐ先輩に会いたい』って、大人しくしねぇから仕方なく連れてきたんだよ、この俺様が!…これでいいんだろ直斗…俺様はもう帰るぜ」
「あ、ちょっと待っ…」
瀬多が声をかける前に男性型のロボットは、さっきのバイクの姿に戻るとさっさっと走り去った。
…しかし、体調が悪いのに安静にしない直斗も直斗だが…そんな直斗をバイクに乗せるあのロボットにも問題がある。
運転中に直斗が手を離して、道路に転がり落ちたらどうするんだ!!
2人に対して怒りの気持ちがこみ上げてきたが、今は直斗を病院へ連れて行くのが先だ。
…説教は直斗の体調が良くなった時にしよう。
「直斗…今、病院に連れていくから」
「やっ…」
「直斗?」
「…せんぱい、傍にいて…」
「……」
はぁ、そんな可愛い事を言われたら、先程の怒りが失せた。
「うん…ちゃんと直斗の傍にいるから、その代わり、今日1日安静にするんだよ?」
「はい…」
力なく直斗が返事をすると、瀬多は彼女を抱き上げ、自分の部屋に向かった。
「先輩…ごめんなさい」
「全く…無茶して」
直斗を自分のベッドに寝かせると、直斗は申し訳なさそうな顔をする。
「俺に会いたいと思ってくれるのは、うれしいけど…それで直斗の熱が悪化したら困るよ」
「…やっぱり、ご迷惑でしたよね」
「そうじゃなくて…もう少し自分を大事にしなさいと言いたいんだよ。直斗の身に何かあったら、俺…」
「ごめんなさい、先輩。もう無茶な事しませんから…」
「わかってくれたら、それでいいんだ。…おかえり、直斗」
「ただいま…先輩」
瀬多の言葉に直斗は微笑む。
「お腹空いていない?何か作るよ…直斗?」
台所に向かおうとする瀬多の手を直斗は掴む。
「大丈夫です…先輩、ずっと僕の傍にいて下さい」
「…わかった。直斗が望むなら、いつでも傍にいるよ」
「…僕を離さないで下さいね」
「離さないよ!直斗が嫌だと言ってもずっと…」
「僕も絶対離さないです…先輩とずっと…」
眠りに入ったのだろう。
直斗の瞳は閉じられ、寝息が聞こえる。
「おやすみ、直斗」
彼女の頬にキスをすると、手をつないだまま、瀬多も眠りについた。
しばらくして、目が覚めると隣に瀬多の顔が近くにあって直斗は驚く。
あ、そっか…僕―。
あの事件を通して、瞳子さんと緋丘響平の深い絆を見て、僕は無性に先輩に会いたくなった。
体調は優れなかったが、早くあの優しい笑顔が見たい、彼の温もりを感じたい。
生死に関わる体験をしたせいか、自分が生きている、帰ってきた事を実感したかった。
「先輩…大好きです」
そう言うと、僕は眠っている彼の頬にキスをした。
END