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□風邪
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風邪をこじらせてしまった。

インフルエンザにかかっていないものの、医者から安静にするよう言われ、薬をもらい、「寝込む準備」をする為にちょっとした軽食や飲み物を買い込み、それを冷蔵庫に入れた後、瀬多はベッドに倒れこんだ。

枕元に置いてある携帯電話を手にとって、恋人である直斗に体調が良くない事をメールで知らせようかと思ったが、やめた。

確か彼女は、八十稲羽を離れ別の地で仕事をしていたはずだ……。

仕事の邪魔をしたくない。それに彼女は受験生でもある。
大事な時期なのだから、風邪をうつす訳にもいかない。ただの風邪で心配をかけたくない。
看病の為にわざわざ来てもらうのも、申し訳なくて頼めない。

病気になると人は心細くなる。
幼い頃にもそれを体験した事がある。

仕事で常に多忙だった両親は家にいる事が少なかった。

初めて風邪で寝込んだ時、大事な仕事を休んでまで看病しようと申し出てくれた両親の優しさを素直に甘える事ができなかった。

両親の優しさを嬉しいと思うよりも、二人の仕事の邪魔をしたくないという気持ちの方が大きかったからだ。

「一人で大丈夫だから……仕事へ行って……」

本当は、傍にいて欲しかった癖に。
あの時の瀬多の言葉に両親は、何故か傷ついたような表情をしていた。

しっかり食事をとって、薬を飲んで大人しく寝ていればすぐ治るだろう。
だから、一人でも大丈夫。
着替えをするのも億劫だったので、そのまま毛布を被り瀬多は目を閉じた。



どのくらい寝ていたのだろう。
額に冷たい感覚が走り、瀬多は目を開いた。
そこに、心配そうな表情で瀬多の顔を覗き込む恋人がいた。
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