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□healing
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『すみません。今日も遅くなります。夕食は先に食べてて下さい』
彼にメールを送った後、すぐに返信はきた。
『わかった。こっちは大丈夫だから、お仕事頑張って』
『ありがとうございます。本当にすみません』
メールを返信し、スマホを机に置くと僕は、はぁとため息をついた。
ここ最近忙しくて家事を彼に任せてばかりいたから、今日こそは早く仕事を終わらせて、僕が夕食を作ろうと思っていたのに急に新たな仕事の依頼が入ってしまい、それは叶わなかった。
「所長、お客様がお見えです」
「はい、今行きます」
彼の事を気にしつつも、依頼者の話を聞くために僕は部屋を出た。
仕事が一段落つき事務所を出た頃には、日付が変わっていた。
…総司さんはもう寝たのかな。
誰もいない真っ暗な家に帰って、1人でご飯を食べている姿を想像したら、彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
両親が共働きで家に帰る事も少なく、いつも1人で過ごしていたと寂しそうに笑うあの時の彼の表情を思い出す。
本当は…総司さんは、お家でご飯を作って、旦那さんの帰りを待っているような家庭的な奥さんを僕に望んでいたんじゃないかな。
彼の事は大事に思っている。でも、仕事だって僕にとっては大事だ。探偵の仕事を続けたい。
でも、今のように仕事にかまけて、彼の事も家の事も疎かにしている生活を続けていたら、いつか彼に愛想尽かされるんじゃないだろうか。
…嫌だ。僕は、総司さんも仕事もどっちも失いたくない!
…僕は、どうしたら良いのだろう。
「直斗!」
そんな事を考えながら歩いていたら、僕を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げれば、目の前に彼がいた。
「総司さん…どうして?」
「直斗が心配で迎えに来たんだ。こんな夜遅くに1人で歩いていたら危ないだろう」
笑いながら、僕の元に駆け寄る。
「お腹すいていない?せっかくだから、この辺で何か食べてから帰ろうか」
「っ…!」
いつからここで待っていたのだろうか。
彼だって明日も仕事があって、朝も早いのに…仕事で疲れているはずなのに迎えにきてくれたんだ。
嬉しさと申し訳ない気持ちで泣きそうなのを堪えつつ、僕は彼の手を握るとそっとうなづいた。