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□いい夫婦の日
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「直斗、お疲れ様。よく頑張ったな」

無事出産を終え、疲れてベッドに横たわっている私の頭を総司さんが撫でる。

「総司さん、今日は本当にありがとうございます。手、大丈夫ですか?」

分娩室でなかなか出てこない我が子を引きずり出す為に苦痛に耐えながら、力一杯いきんでいる私を彼は励ましながら、ずっと手をつないでくれた。

「直斗の痛みに比べたら、これぐらいどうってことないよ。お礼を言うのは俺の方だよ。俺の子を産んでくれてありがとう」

「お礼を言われる程の事をしていませんよ。だって、私が貴方の子供を産みたくて産んだんですから」

出産は大変だったけど、元気よく産声をあげている赤ちゃんの姿を見たら、今まで辛かった事も全て吹き飛ぶ位に幸せな気持ちになった。
娘の幸を産んだ日の事を思い出し、懐かしさと感動で涙が出そうになった。
どんなに辛くてもこの子に会いたくて自分は頑張ったんだなぁと思うと我が子が愛おしくて仕方がない。

幸の時、仕事で立ち会い出産ができなかった総司さんは今回初めて赤ちゃんが生まれてくる瞬間を近くで見たせいか「俺が父親だってわかっているのかな?俺の指を握ったぞ!」とか「今すぐ家に連れて帰りたい」とか言ってしばらく興奮が治まらなかった。そんな彼の姿を見て、本当に頑張って産んで良かったとしみじみ思った。


「明日からまた忙しくなるな」

「でも、楽しさも倍になりますよ」


子供を産む時も、産んだ後も母親は大変だ。幸が産まれた時は全てが初めてな事ばかりで、自分が母親なんだからちゃんとこの子を守らないといけないとか色んな事を我慢して一人で全部やらないといけないというプレッシャーに負けて、育児ノイローゼ気味になった事があった。
そんな私を見て総司さんは「今は大変な時期だけど、一人で抱え込まないで一緒に頑張ってのり切ろう。直斗がこの子の為に一生懸命頑張っているのは俺も分かっている。だから、何でも一人でやろうとしないで俺を頼って欲しい。……それにこういう経験は今しかできない事だから俺にも育児を手伝わせて」と母親として自信を無くしていた私を責めず優しく励ましてくれた。
自分も仕事で忙しいのに積極的に家事をやってくれて、私が疲れている時や久慈川さん達と遊びに行く時は嫌な顔をせず幸の面倒を見てくれた。
もう一人子供を作ろうという余裕ができたのも、前向きに育児ができるようになったのもこれまでずっと仕事や家事、育児をサポートしてくれた総司さんのおかげだ。


「昨日は直斗から『破水した』と言われた時、ホント焦ったよ」

「ふふっ、普段何があっても動じない冷静な貴方があんなに慌てていたのを久々に見ましたよ」

「……直斗と幸に情けない姿を見せちゃったな」

「でも、おかげで私は冷静になりましたけどね。貴方と来栖君、明智君にはご心配をおかけしましたけど、一緒にいてくれて助かりましたよ。初めてではないとはいえ、やはり何かあった時一人だと不安ですし……」

「でも、次は大丈夫だよ」

「次はって……もう三人目のことを考えているんですか?気が早すぎますよ」

「あ、いや……」

総司さんは顔を真っ赤にして狼狽える。そんな姿が可愛くて笑ってしまった。
決して楽な出産ではなかったけど、彼が望むならもう一人産んでもいいかな。
お互い一人っ子で共働きの両親を持っていたせいか、「子供が寂しい思いをしないように最低でも二人作ろう」というのが結婚前に二人でした約束だ。
幸からも弟と妹が欲しいっておねだりされたしね。
次は妹が欲しいって要求されるかも。

「じゃあ、俺は幸を迎えに行くね。今日はゆっくり休んで。明日、幸と一緒に会いに行くよ」

「はい……あっ!」

今日は11月22日で息子が生まれた日でもあるが、いい夫婦の日でもある。
この日に特別なお祝い事をしていた訳ではないけど、これを機会に愛と感謝の気持ちを夫に伝えようと思った。

「総司さん……」

「んっ?」

私の声に部屋を出ようとした彼が振り向く。

「私を貴方のお嫁さんにしてくれてありがとうございます。これからもずっと貴方と幸と産まれてきたばかりの赤ちゃんと一緒に生きていきたいです……愛しています」

言った後に恥ずかしくなったけど、後悔はしていない。
私がどれだけ貴方を好きか、貴方の傍にいれてこんなにも幸せなのだと伝えたかった。

「こちらこそ……俺と結婚してくれて、俺の子供を産んでくれて、ありがとう。直斗と出会えて本当に良かったと思っている。直斗、愛しているよ」

彼の腕の中で愛と感謝の言葉を囁かれて心が温まる。おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっとこの気持ちを忘れずにこの人と一緒に人生を歩んでいきたいと思い、強く抱き返した。

END
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