P4(short)


□あなたの傍でおやすみなさい
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(……眠れない)

1時間前からベッドに入っているけど、眠気がなかなかこない。
ブルーライトに当たると余計眠れなくなるのは分かっているけど、つい時間が気になって枕の隣に置いてあるスマホを手に取る。

時間はもう0時を過ぎていた。

(明日も朝早いのに…)

何度も寝返りを打ったり、何も考えないように目をつぶったりしてみたけど…効果はなし。

(伊織先輩と花村先輩の部屋に行くんじゃなかった)

伊織順平と花村陽介は、直斗が通っている高校の先輩で同じ寮に住んでいる。

直斗は男子高に通っているが、性別は女だ。
学校の近くで起こっている事件を捜査する為に男子生徒として最近転校してきた。
効率良く多くの情報を集める為に男子寮にも入った。
祖父や秘書の薬師寺にかなり反対されたが、幸い寮に住んでいる生徒は皆、良い人ばかりなので何の問題もなく、学園生活を送っている。

「直斗、起きているのか?」

睡魔がこないことを諦めて、直斗が本でも読もうと起き上がろうとした時、ルームメイトである瀬多総司が声をかけてきた。

瀬多総司は、直斗の一つ上の先輩だ。
最初は同級生である巽完二と同じ部屋だったのだが、夜遅くに一人で大浴場に入っていた時にタイミング悪く寮長で3年生である荒垣真次郎と瀬多が入ってきてしまい、女だとばれてしまったのだ。

事情を知った二人は、直斗が自分達以外の寮生に女とバレないように部屋を変えてくれた。
本当は一人部屋の方が良かったのだが、残念ながら部屋は満室で空きが一つもなかったので、瀬多と同じ部屋にしてもらった。
性別を知られたのが、この二人で良かったと思う。
荒垣と瀬多は人の秘密を周りに言いふらすような軽薄な性格ではないし、信頼できる。

同じ部屋で一緒に過ごすようになった瀬多は、女とバレないようにできるだけ傍にいて、直斗を助けてくれた。
直斗が快適に寮生活を送れているのも瀬多のサポートのおかげだ。

「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「平気。ちょうど俺も寝付けなかったから…そっちに行って良いか?」
「えっ…」

瀬多は起き上がると直斗のベッドに近づく。

瀬多が近づいてきて、直斗の心臓がうるさく鳴っている。
毛布で顔を半分隠して、ぎゅっと目をつぶっていると瀬多は直斗の頭を撫でた。

「……ごめんな」
「なんで、先輩が謝るんですか?」
「本当は怖い話がダメだったんだろう?言ってくれたら、途中で一緒に抜け出す事ができたのに…」

夕食後に仲が良い先輩と同級生、後輩で順平と陽介の部屋に集まって怪談話をした。
怪談をする事を知らなかった直斗は瀬多に誘われて、一緒に来たのだが、順平の怖すぎる話に怯えてしまい、眠れなくなってしまったのだ。


「うぅ…それは」
「だから、責任をとるよ」
「せ、責任?」
「直斗が眠れるまでずっと手を繋いでおくよ」
「そ、それは…」
「…嫌なら断ってもいいよ」
「い、嫌じゃありません!」

嫌ではない。
ただ、瀬多が近くにいると逆にドキドキして、ますます眠れなくなりそうだ。

でも…。

「お、お願いします」

今日聞いた怪談話を思い出して、怯えながら一人で起きているよりも、瀬多が傍にいてくれた方が安心だ。
恐怖が少し和らぐ事ができるかもしれないし、心強い。

「良かった。子守歌も歌おうか?」
「…それは結構です」
「それは残念」

瀬多の手は温かくて、心地いい。瀬多が直斗の頭を優しく撫でる。

(先輩といるとドキドキするけど、不思議と落ち着く。こんな事初めてだ)

瞼がどんどん重くなってきた。

まだ、寝たくない…もう少し瀬多の温もりを感じていたい。
そう思っていても、急にきた眠気に逆らえず直斗は瞳を閉じて眠りについた。

END
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