garbage box

□希望
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結局、″彼″を説得できず、″彼″と分かり合える事は無理なのだと理解した時、心にぽっかり穴が空いたような喪失感に襲われた。

TVの世界から出た後、俺の行動を予測していたかのように陽介がタイミングよく現れた。

「皆には、黙っててやるから」

先程まで″彼″と殺伐としたやり取りしていたので、陽介のいつもの明るい笑顔と優しさに少しだけ心が安まった。


「″一人で行かないでください″って言いましたよね?」

堂島宅に着くと、家の前に直斗が立っていた。
無表情だが、怒っている事は声色でわかった。

「…ごめん」
「…別にいいですよ。貴方がケガ一つなく無事に戻ってきたから…」

そう言うと直斗が俺の手を握ってきた。
手が冷たい。どのくらいここで待っていたのだろうか。

「…どうして、ここに?」
「…貴方の事だから、きっと行くんじゃないかと思って…そしたら、居ても立ってもいられなくて…家に行ったら、部屋は真っ暗で、チャイムを鳴らしても反応がなくて、携帯をかけてもつながらなかったので…」
「心配をかけてすまなかった…」
「全くですよ…帰ってきたら、いっぱい叱ってやろうと思っていたのに…貴方の姿が見えた時、安心して…言いたかった言葉も全部消えちゃいましたよ」
「本当に…ごめん」
「…申し訳ないと思っているのなら、早く家に入れて下さい。寒くて凍え死にそうです」
「あぁ…わかった」

直斗を居間に通した後、お茶を用意しようと台所に向かおうとしたら、後ろから抱きしめられた。

「本当に…良かった。貴方の身に何かあったら…僕は…」
「直斗…」

今にも泣きそうな声で、体を震わせながら、俺の体を力いっぱいに抱きしめる。

「怖いです…。貴方を失ってしまったら、僕は、″彼″に何をするかわからない」
「直斗…俺は…」
「お気持ちはわかります。でも、貴方には僕が…僕たちがいるじゃないですか。…もっと僕たちを信じて…頼ってください」
「…陽介にも同じような事言われた」
「…花村先輩が?…なんか悔しいです」
「直斗?」
「僕より花村先輩の方が付き合いが長いから…仕方がないのはわかっています。でも、恋人である僕よりも、花村先輩の方が貴方の事をよく理解しているようで、本当に悔しいです」
「俺が″彼″に会いに行った事…陽介から聞いたのか?」
「ええ、先輩の携帯が繋がらなかったので、花村先輩に電話して、しつこく問いただしたら、答えてくれましたよ」

皆には黙っててやると言ってたのに…。

「…陽介にとって、″彼″は…大事な人を奪った…殺人鬼だ。″彼″が今までやってきた事は、決して許されない事だ。この事件を解決する為に…この街の霧を晴らす為にも…″彼″を倒すしか方法はない…」
「先輩…」
「俺が…″彼″の気持ちに気づいていたら、もっと歩み寄っていたら、″彼″はこれ以上の罪を重ねずに済んだのかな…本当、自分の無力さを痛感するよ…」
「自分を責めるのはやめて下さい!」
「それでも…ちゃんと話し合えば改心してくれるのではないかと期待して、一人で乗り込んだら、拒絶されて、結構キツイ事も言われたよ…それでも、俺は″彼″を倒したいというよりも救いたいという気持ちの方が大きいんだ…」
「先輩…」
「大丈夫だよ…。明日になれば、今までどおり、リーダーとして皆を引っ張っていくから…だから…」
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