garbage box
□抱き枕
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先輩の部屋にお邪魔したら、綺麗に畳まれた布団の上にシロイルカの抱き枕がポツンと置かれていた。
「それ可愛いだろう?この間、叔父さんと菜々子と3人で水族館へ行った時に買ったんだ」
「…先輩、いつもこれを抱いて寝ているんですか?」
「うん、そうだけど…やっぱり、男がこういうのを抱いて寝ているのって変かな」
優しげな顔立ちに似合わず、男気溢れる彼がこんな可愛いものを抱いて寝ている姿を想像して、思わず笑みが零れた。
馬鹿にしているのではなく、ただ可愛いなぁと思ったからだ。
「いえ、変じゃないです!」
「よかった。これを抱いているとすごいよく眠れるんだ。お茶入れてくるから、ちょっと待ってて」
「あ、おかまいなく」
彼が部屋を出た後、僕はシロイルカの抱き枕を触ってみた。
パウダービーズ仕様でしっとりした肌触りの良いそれはとても気持ちよく、彼の言うとおりこれを抱いていたら良く眠れそうだ。
…この子は、毎晩先輩に抱きしめられながら一緒に寝ているんだ。いいなぁ…って、何を考えているんだ僕は!
「直斗」
「ひゃあ!!」
「ご、ごめん、脅かすつもりはなかったんだけど…」
「い、いえ、僕こそすみません!」
赤くなっているであろう顔を隠すために僕は、抱き枕に顔を埋めたその時―。
…その枕から彼の匂いがした。
「抱き心地いいだろう?それ…」
「えっ、あ、は、はい…」
「それ気に入ったのならあげるよ」
「えっ…」
「実はこれと同じ枕をあと一つ持っているんだ。まだ、使っていないのを直斗にあげるね」
「…いいんですか?」
「うん、直斗もそれを使ってくれたら嬉しいよ」
「あ、あの、それじゃ僕は、この子が良いです!」
「え、でもそれは、俺がいつも使っているものだよ?汚れとかあるかもしれないし、新しいのがいいんじゃないか?」
「いえ、この子が良いです!」
「?直斗がそう言うならいいけど…」
だって、貴方の匂いがするこの子抱いていたら、貴方が傍にいるような錯覚に陥れそうだから。
そんな事恥ずかしくて彼には絶対言えないけど…。
END