garbage box

□テディベア
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「わりぃ、待たせたな」
「いや、大丈夫だよ。おかげでこれができたし…」
「…なんだそれ?」
「あみぐるみ」

試験が近いので、放課後、瀬多と長瀬と一緒に勉強をする事になった。
誰もいない教室で瀬多は、ずっと1人で勉強ではなく…あみぐるみを作っていたのらしい…。
さすがは、学年トップ。余裕である。

「…お前ってさ、多趣味だよな。釣りとか家庭栽培とかバイクだけじゃなくて裁縫にも手を出すとは…」
「何事も経験だよ。ちなみにこのあみぐるみは、完二に教えてもらったんだ」
「はぁ!?完二って、あの巽完二!?」

強面で男らしく、暴走族を1人で潰したという武勇伝を持つ後輩が、こんな可愛い趣味を持っていたとは…驚きだ。

「うん。完二って、すごい手先が器用なんだ。教え方も上手いし…」
「あの巽完二がねぇ…」

人は見かけによらずというか…。

「一条、これもらう?」
「いや、こういうのは女の子にやれよ」

瀬多が作ったのはテディベアだ。
こげ茶色で黒いつぶらな瞳。
お店に置いてもおかしくない位に…初めて作ったとは思えない程、よくできている。

「そうだ!教室を出て、最初に会った女の子にこのクマをプレゼントしよう!」
「あ、さっき長瀬からメールが来て、先にジュネスに行っててくれって」
「わかった」
毛糸と裁縫セットを片づけると、先ほど出来上がったテディベアを持った瀬多と一緒に教室を出る。

「…いきなり、これをプレゼントしたらびっくりするかな?」
「あー、でもお前なら女子は喜んで受け取ってくれそうだな」
「?なんで?」
「いや、なんでって…」

…マジで無自覚かよ。校内でお前に憧れている女子はいっぱいいるのに…。


靴箱まで来るとそこに、小柄で帽子をかぶった男子…いや、女子を見つけた。
つい、最近女の子だと判明した探偵王子こと白鐘直斗だった。

「あ、先輩…こんにちは」
「こんにちは、今帰り?」
「はい…先輩もですか?」
「うん、これから一条と長瀬と3人でジュネスのフードコートで勉強会」
「僕も久慈川さんと巽君と3人で勉強するんです」

瀬多とにこやかに会話をする探偵王子。
最初の頃は、近寄りがたい雰囲気を持っていて、お高くとまっている印象だったが、最近
雰囲気が柔らかくなったような気がする。

…やっぱり、瀬多なのだろうか。
しかし、こいつらいつの間にこんなに仲良しになったんだ?

「あ、そうだ…直斗、これもらう?」
「…ぬいぐるみですか?」
「うん、俺が作ったんだ」
「先輩が!?すごいですね…」
「初めて作ったものだから、あんまり上手くないけど…あ、ぬいぐるみには興味ない?」
「い、いえ、あの…先輩が作ったものなら…ありがとうございます」

急に顔を赤らめ、瀬多からぬいぐるみを受け取ると白鐘はそれをじっと見つめ、微笑む。

へぇー、白鐘の笑顔…初めて見た。
なんか、女の子(いや、実際そうなんだけど)って感じで可愛いかも。

「あ、そうだ!忘れてた…」

瀬多は自分のポケットに手をつっこむと、そこから水色のリボンが現れた。
そのリボンをテディベアの首に付けると瀬多は満足げな顔をする。

「知っている?テディベアに名前とリボンを付けてあげた日がその子の誕生日になるんだよ」
「そうなんですか。あの…この子にせ、先輩のお名前を付けてもいいですか?あ、いえ、ふ、深い意味はなくて、その…他に名前が思い浮かばなくて…えっと…」

…マジかよ。あのクールな探偵王子が乙女になったぞ。

「うん、いいよ。直斗は俺の名前が好きなの?」
「え、あの…名前も好きですけど…先輩が…い、いえ、なんでもありません!!し、失礼します!」

真っ赤になった顔を隠すように帽子を深く被り、白鐘は走って去って行った。

「?今日の直斗…なんか変」
「…お前さ、本当にわかんないのか?」
「何が?」
「いや、もういい…」
「??」

あれは、告白しているようなもんだろ。なんで気づかないんだ?
…白鐘に同情するぜ。

がんばれ、探偵王子。ライバルは多いが、一番の難関はこいつの鈍感力だ。
「今日は、フードコートで何を食べようかな」と呑気にそう呟く、瀬多に呆れつつ、
俺は心の中で白鐘にエールを送るのだった。

END
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